残念ながらベタ惚れ
「ねえねえパルフェ、このドレスなんてどうかしら!」
「ピ、ピーチ姫、ちょっと待って下さい……」
クッパ城に拐われて来たピーチは今、いかにも来賓用といった豪奢な部屋で楽しげにドレスを合わせている。
彼女が脱いだドレスや小物を綺麗に片付けるパルフェだが、ペースが早くて追い付かない。
パルフェは同性かつ同じ人間という事で、当然のように世話係に任命された。
別に嫌ではないけれど、拐われたというのに楽しそうなピーチに調子を狂わされっぱなしだ。
「姫、不安は無いんですか?」
「慣れてるもの、平気よ。それに絶対マリオが助けてくれるんだから」
心からヒーローへ信頼を寄せるピーチに微笑ましい気分になったパルフェだが、
ふと今の言葉は、絶対にマリオがクッパを倒すと言われているも同然だと思い至った。
ムッとしたパルフェはピーチの方を見もせず、ドレスをクローゼットに片付けながらツンとした態度で口を開く。
「そうやって楽しく過ごせるのも今のうちですよ。今回こそクッパ様が勝ちます」
「……うふっ」
「何が面白いんですか。マリオが負ける訳が無いとでも言いたいんですか?」
「ううん。あなたって本当にクッパに恋してるんだなって思ったから」
「っえ!?」
振り返ると、にこにこと機嫌が良さそうなピーチの姿。
対称的に驚いた顔のまま何も言えず静止するパルフェへ、ピーチは言葉を続ける。
「普段は普通に応対してくれるのに、クッパの事となると態度が変わるんだもの。見てれば分かるわよ」
「そ、それは私がクッパ様に忠誠を誓っているからです」
「態度だけならそうかもしれないけど。クッパを見るあなたの眼差しがもう完璧に恋する乙女よ」
「えぇぇっ……」
そんな事を言われても、今自分がクッパに対して抱いている感情は間違いなく忠誠心だ……と、パルフェは自分で確信している。
だがそれを告げても、ピーチは笑顔を崩さずにパルフェの感情が恋だと断定した。
「忠誠心に目が雲って見えなくなっているだけよ。落ち着いて来たら、きっと恋心を自覚するはず」
「百歩譲って私が本当にクッパ様に恋をしているとしても、その言い分なら自覚する事は無いですね。私のクッパ様への忠誠は永遠ですから」
「……恋は盲目、ね」
「何か言いました?」
「いいえ。まあいつか悩む事があったら遠慮なく相談してちょうだい。私はパルフェを応援するわ!」
「……お気持ちは、有り難く受け取っておきます」
ピーチの主張は受け入れるのに勇気が要るが、その心遣いは正直に嬉しい。
パルフェはクッパ城に来るまで、友達らしい友達が一人も居なかった。
たまに仲良くしようとしてくれる子が居ても、両親の妨害により離れて行った。
クッパ城に来てからは軍団の仲間達と仲良くしているが、当然その中に人間は居ない。
別に種族なんて気にしない、と思っていても、やはり同族かつ同性の友人というのは嬉しくて頼もしいもの。
「そもそも私、ピーチ姫の友達で良いんですか? 立場的にちょっと、アレですよね」
「大丈夫! クッパはそんな事 気にしないから」
「……クッパ様の事をよくご存知ですね。長い付き合いですものね」
「ヤキモチ焼いちゃった?」
「ち、違います! ただ私が出会う前のクッパ様の事が気になって……!」
「じゃあ話してあげるわ。お茶でも淹れてゆっくりしましょう」
「ぜひ!」
目を輝かせて食い付いて来るパルフェに、ピーチは楽しげに笑った。
立場的にちょっぴり複雑な心境のパルフェだったが、社交的なピーチに引っ張られ、初めて出来た人間の友人と楽しく親交を深めて行く。
そして思う事はやはり、拾ってくれたクッパへの感謝。
「(全部……、全部クッパ様のお陰ね)」
友人が出来たのも、こんなに楽しいのも全て。
例えクッパが、手下として利用する為に打算で仲間に入れたのだとしても構わない。
自分が今感じている幸せは、確かに本物なのだから。
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