戸惑うけれど幸せです
ざわめきが走るパーティー会場の中央、天井が盛大に壊れ巨体が落ちて来る。
その正体を認識した瞬間、辺りはパニックに陥った。
「ク、クッパだぁぁーっ!!」
自信満々に周囲を見下ろす視線、誰もを怯ませる雄叫び。
その姿を目にしたパルフェは胸がいっぱいで、今すぐ声を大にして主張したくなる。
あなた達が恐れ戦いているその方は、私を救って下さった私の主なんだ!
だが今はまだ時期ではない。
幸いにもマリオがピーチ姫に近付く前だったので、距離はあるが上手く彼との間にクッパが割り込む形になった。
「ここで会ったが百年目だなマリオよ、ピーチは頂いて行くぞ!」
「おま……クッパ……姫がケーキ焼いてくれた時もパーティーや祭りに招待してくれた時も邪魔しやがって! 楽しみを先送りにされるおれの身にもなれよぉぉっ!」
「フン、知った事か! 緑のヒゲを留守番させて自分だけ楽しもうとした罰ではないのか?」
「ルイージは気を遣って自分から留守番を申し出てくれたんだよ! それにいつも留守番させてる訳じゃない!」
クッパとマリオがやいやい言い合っている間、ふと複数の衛兵キノピオがこっそりピーチ姫の許へ向かうのを目にしたパルフェ。
恐らく、マリオがクッパの相手をしている間に連れ出すつもりなのだろう。
他にクッパの手下が見当たらないので、マリオがクッパを押さえてくれさえすれば上手く行くと思ったのか。
それを示すように、マリオが妙に好戦的にクッパと戦いを始めようとしていた。
「もう今ここで決着つけようぜ、お前もおれが来るまでに待ちくたびれるだろ!?」
「ワガハイはワガハイに有利なフィールドで戦うのだ。何にせよ目的は達させて貰う! パルフェ!」
クッパが振り返り名を呼ぶ。
初めて聞く名にマリオをはじめ誰もが疑問符を浮かべた瞬間、ピーチ姫に近付いていたキノピオ達が風に巻かれ、紙のように吹き飛んだ。
そして誰も居なくなった階段を駆け昇り、ピーチ姫の腕を掴む見慣れぬ少女。
マリオが驚いて声を上げる。
「な、お前、誰だ!?」
「私はクッパ様に仕える……魔女パルフェ! ピーチ姫は頂いて行くわ!」
「よくやった!」
クッパがクラウンを呼んで飛び乗り、パルフェ達の方へ。
そのままパルフェとピーチを拾うと、高笑いを上げながら去って行く。
下からマリオの叫ぶ声が聞こえるが、既に高く飛び上がったパルフェ達には何を言っているか分からない。
「ガハハハッ! 見たかパルフェ、マリオのあのマヌケ面! 完全にオマエに驚いておったぞ!」
「ふふふふっ……見ました見ました。まさか人間の私がクッパ様の部下だなんて思いもしなかったんでしょうね。私、お役に立てましたか?」
「文句無しに合格だ! 魔法もなかなかだったな!」
「あ、有難うございます!」
楽しげ、親しげに会話する二人を、ピーチ姫は目をぱちくりさせて見つめる。
彼女もクッパ軍団の中に人間が居るだなんて、思ってもみなかったのだろう。
「あなた……パルフェと言ったかしら。本当にクッパの手下なの?」
「ええ。クッパ様に心から忠誠を誓っていますが、それが何か?」
非難されると思ったパルフェは、何を言われても大丈夫なように身構えるため、ツンとした態度を見せる。
しかしピーチ姫は。
「そうなの! じゃあわたしがクッパのお城に居る間は一緒に居られるわね。女同士 仲良くしましょっ」
「……え」
屈託の無い満面の笑みで紡がれた言葉に、今度はパルフェが目をぱちくりさせる番。
一体何なのだろう。
城はロクな警備もせず誰でも入り放題。
大魔王に拐われたお姫様はにこにこして、魔女と仲良くしようとする。
……この世界は、こんなにも優しい世界だったのか。
「もう……意味わかんない」
そう呟いたパルフェの顔は、言葉とは裏腹に笑顔。
クッパに拾われる前の悲惨な生活は何だったのだろう。
親に付けられた傷はすっかり癒え、心の方も、クッパ達と一緒に居れば幸せに満ちる。
「(この幸せは全て、クッパ様に拾って頂いたから…)」
頬を染め、
嬉しげに微笑むパルフェ。
頭が高い位置にあるクッパは気付かなかったが、隣のピーチはその顔をしっかり見た。
「(あら……)」
クッパ城での虜囚生活に不自由は少ないが、些か退屈。
今回はそれが凌げそうだと、楽しげに笑むのだった。
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