味気ないパフェ



やっちゃったなー、オイやっちゃったよ。

あいつは自覚はないんだろうけど確実に妬いていたし、顔を真っ赤にして涙目であんな事を言うもんだから、ちゅーしてやりたいと思った。
やれるもんならやってみ、と煽られ本当にやっちまった。

最初は抵抗していた名前の力が徐々に抜けていって、とろんとした目付きになって、そんな顔見ちまったらもう持ち帰りてえと思うじゃん?
けれど大事にしたいという気持ちもあったし何とか踏みとどまった俺を褒めて欲しい。

しかし名前はずっと無言でとぼとぼと歩いて、一言も話さず屯所へ帰ってった。あれからは会ってもいない。


「ハァ…………」

「銀さんどうしたんです?ため息なんてついて、幸せが逃げますよ」

「ぱっつぁん、その幸せが逃げてったからため息ついてんだよ。俺にはもう何も無いの、もう何も」

「なに悲観してるんですか、らしくないですね」


俺の悩みなんて童貞には分からねえよ!
てっきりあっちも好いてくれているんだと思っていたが、俺の勘違いだったのか。もう前の様な関係には戻れないかもしれない。変にギクシャクしてしまうなら止めとけば良かった、と頭を抱える。

もう何も考えたくなくて気晴らしにパフェでも食いに行くかと外へ出た。
偶然街で会ったりしていつもの様に気の抜けた顔で、酔ってて何も覚えてないよって言ってくれないだろうか。そんな淡い期待も抱きつつ、いつものファミレスで春のいちごフェアが開催されていたので迷わずにいちごパフェDXを注文した。
いちごパフェDXに刺さった一本のポッキーを引き抜きポリポリ食っていると見知った男が向かいの椅子に腰掛けた。


「よう、沖田くんじゃねーの。なに、奢ってくれんの?ちなみにお宅んとこの名前ちゃんなら暫く見てないぜ」

「旦那、今日はアンタに用があるんでさァ。あいつと何かありやしたか」


ギクリとする。
顔に出ていないだろうか。いくら取り繕うがこの男の前では意味が無いことくらい分かってはいる。


「……べ、別になにもねェけど」

「あいつ、旦那の名前を出したら茹でたタコみたいに真っ赤になっちまって、高熱で寝込んでまさァ。もしかしてもうヤっちゃいました?旦那も手が早いなあ」

「まだヤってねえわ!!熱なんて寝りゃ下がんだろうが子どもじゃあるめえし」


とは言ったものの何だかんだ心配で、急いで食べたパフェは味がしなかった。せっかくのいちごフェアが台無しだ。

結局沖田くんに連れられ屯所に来てしまった。
そもそも俺の名前を出しただけで発熱するくらいなら、顔を見た瞬間に泡を吹いて倒れてしまうのでは。どんな顔で会えばいいか分かんねえけど、とりあえず謝りたかった。俺ァ基本的に去ってく奴は追わねえ主義だが、好きな女はまた別だ。


「……おーい、入るぞ」


一応声を掛けるも反応はない。
戸を静かに開けて部屋に入ると、名前は眉間にぎゅっとシワを寄せて寝ている。すぐ側に座り、汗で張り付いた髪を払ってやると少し唸り声がして薄らと目が開いた。


「ぎ、んさん……?」

「よう」

「わたし、また、銀さんの夢見てる……」


こいつはまだ夢の中にいるようだ。
眠気の残った目をしながらも、必死にこちらに手を伸ばしてくる。


「なに、こうしてェの?」


指を絡めてやると、ふにゃっと笑った。
やっぱり自惚れても良いんだろうか。もう一度それに触れてみたくて、顔を近づけるととろんとしていた名前の目は大きく見開いた。


「……!? ぎ、ぎ、ぎんさん!?」


何してるの、とえらく焦った様子で飛び起きた。


「あー、目覚めましたか?お姫様」

「な、ななんでここに」

「沖田くんにお前が寝込んでるって聞いたんだよ。全く心配かけさせやがって。なに、銀さんとのちゅーが忘れられないの?」

「っ!!」


図星だったのか、名前の白い肌が真っ赤に茹で上がる。沖田くんが言っていた通りタコみたいだ。たこ焼きにでもして食っちまうか。


「うう、忘れたいのに、ずっと頭から離れなくて……ごめん、忘れるから!きっと酔った勢いであんな事したんだよね」


本気にしてごめん、と恥ずかしそうに顔を伏せた。
あのなあ、俺だってあの夜が忘れられねーし、そんな顔すんのなら忘れろなんて言いたくねーんだよ。


「名前、」


名前を呼んで、こっちを見た瞬間に油断しきった半開きの唇を塞いだ。
丸い目は次第に力が抜けていく。逃げられない様に後頭部をぐっと引き寄せるけど、あの夜みたいに抵抗してくる様子はない。
きっと、俺ら相性が良いと思う。キスだけでこんなにも何も考えられなくなってしまうのだから。


「……っはあ」


熱く柔らかい唇から離すと、唾液が糸を引いた。


「俺、今シラフな。そりゃまあ酔った勢いってのもあったけど、ずっとこうしたかったんだよ」

「……誰にでもこういうことしてるの?」

「ハァ!?してるわけ無ェだろ、お前は銀さんをなんだと思ってんの」

「だって、なんか慣れてない?」

「慣れてねーよ!き、キスなんて久しぶりだっつーの!」

「そうなんだ……」


それでもまだ不安そうに眉を下げる。
女って奴ァ、言葉にしなきゃ分からねえのか。


「俺はなあ、おめーのことがす、す、」

「す?」

「好きなんだよ……ったく、こんな小っ恥ずかしい事言わせんじゃねえよ!」

「私も……銀さんとは飲み友達のままでも良いと思ってたけど、他の女の人に取られるのはやだし独占したい、銀さんが好き」

「……おー、独占してーのは俺もだっての。これからはそんな顔、他の奴に見せんじゃねーぞ。俺ァ結構束縛するからな、緊縛もしちゃうかんな」

「お、お手柔らかに……」


今度はお互いに吸い寄せられる様に唇を重ねた。
重ねてはすぐに離れて、至近距離でじっと見つめられ「もう一回」と袖を掴みキスをせがんで来るのは反則だと思う。その潤んだ瞳も火照った頬も、赤い唇も、漏れる吐息も、何もかもが反則的に思えた。

暫く夢中になっていると、真っ赤になった名前がぶっ倒れて、俺は屯所から追い出されるのであった。
まあこれからはいつでも出来るし、今日のところは帰ってやるかね。



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