NO MORE KISS



あれから総悟はキス魔になってしまったようだ。

屯所に居るときでも隙あらばちゅー、物陰でちゅー。
土方さん達と居るときも、UFOが飛んでらァなんて言って気を逸らした隙にちゅーしてくることも。

けれど、それ以上の事はしてこない。
私たちってどういう関係?友達でもなければ恋人でもない、体の関係ですらない。ため息をつく事が増えた今日この頃。

夜だって、布団を敷いている途中で彼が何も言わずにキスだけしにくる。
数回の口づけを交わし私の頭がぽーっとして来たところで帰っていく。私は悶々としながら寝なくてはならない。え、なに、遊ばれてる?


***


「ちょっと、さすがにもうやめて……」


今も縁側ですれ違いざまに腕を引かれ、誰も居ない部屋の壁に追いやられて、雑に顎を持ち上げられるけど意外にもキスは優しい。
しかしこんな所を誰かに見られたらと思うと気が気でない。


「総悟アイツどこ行きやがった……!」


土方さんが総悟を探しにすぐ近くまで来ているっていうのに止めようとしない。
彼の胸を手で押し返すも離れてくれないもんだから、私は総悟の下唇を思いっきり噛んでやった。


「…………痛って」

「もういい加減にして!キス禁止!」


そう言い放って私は逃げた。
したくないわけじゃなくて、総悟がどんな気持ちで私にキスをしているのかを知りたかっただけのに。



***



「お前さあ、それ…………」


誰かに相談したくて出向いたのは万事屋。
本当はこんな事誰にも話すつもりは無かったのだが、頭がパンクしそうだった。
ソファーの上で胡座をかいて聞いてくれていた銀さんは、何か物言いたげな表情でため息をついた。


「最近、お酒も喉を通らなくてさ……」

「オイオイ、俺の誘いを尽く断ってたのはそれが原因かよ」


こくん、と頷くと銀さんは酷く呆れた表情をした。

エレベーターに閉じ込められてからだ。
お酒を飲んでも何か酔えない、前みたいに頻繁に飲みたいとも思わない。酔っ払う以上に気持ちの良い事をあの夜知ってしまった。


「名前は沖田くんのことどうなの、惚れてんの?」

「わかんない……」

「じゃあ俺ともキス出来んのか?」


向かいに居た銀さんが、私の座っているソファーの背もたれに手を置き、顔をぐっと近づけてくる。
首を捻ると片方の手で顎を掴まれ、いとも簡単に角度を変えられてしまう。


「こっち向けよ」

「……や、だ」


力では敵うはずもなく、せめてもの抵抗で唇を内側に巻き込み、目をぎゅっと強く瞑ると彼は深い深いため息をついた。


「そういう事だろうが」

「……へ?」

「俺とすんのは嫌なのに、沖田くんのは受け入れられたんだろ」


中指で私の額をパチンと弾くと、彼は向かいのソファーに戻った。
迎えが来てんぞ、と顎で合図をするから振り向くと、不機嫌そうな表情をした話題の彼が立っていた。

彼は何も言わずに私の腕を掴み、人が通らないような路地裏へと引っ張っていき、荒々しく唇を押し付けてきた。こんな噛み付くようなキスは初めてだった。


「……っ、総悟!やめて、」

「やめねえ」

「んっ……やめてってば!」


ぐっと胸を押すと、力の抜けた総悟の手がぶらんと下がり、叱られた犬みたいに寂しげな目をする。


「なんでィ、そんなに嫌かよ」

「恋人でもないのに毎日毎日何なの!?」

「何なのって、そりゃ……言わなきゃわかんねーのかよ」

「分かんないよ!!」

「……何のためにコレ着けてんでィ」


総悟は私の首に装着させられた赤い輪っかを、指で持ち上げた。何度外してと頼んでも一蹴されていたから最近はもう諦めていた首輪。


「嫌がらせじゃなかったの?」

「まあ、最初はそうだったけど。牽制みたいなもんでィ」

「牽制って、なんで」

「惚れた女を独占したいって思うのは普通だろうがィ、分かったら大人しくちゅーさせろ」


また顔が近づいてきて今度のキスはとても優しい。
しつこいキスは彼なりの愛情表現なんだ。幼い頃から剣を握ってきた彼は、甘えるのが少し下手なのかもしれない。私はそんな不器用な愛を全力で受け止めたいと思ってしまった。


「……なあ、お前こそ俺の事どう思ってんでィ。まだ弟とかそういう風に思ってんのか?」

「バカ、好き。大好き」

「……バカは余計だろうが」


今度は自分から、総悟の首に腕を回して唇を押し付けた。
気持ちが爆発しそうで苦しいけれど幸せで、ずっとこうしていたかった。




それからも彼がキス魔なのは変わらない。
土方さんにはこの間、ほどほどにしとけよと言われしまい、いつ見られてしまったのだろうと頭を抱えた。
いつのまにか屯所中にも私達の関係が広まっていたようで、総悟は満更でも無さそうだ。
彼の機嫌の良い日は暫く続いた。


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