今夜、ふたりだけの籠




高層ビルのエレベーターに、私と総悟は乗っている。
真選組の宴会がこのビルの36階で行われていて、少し遅れて会場へ向かっている途中、同じく遅刻組の総悟に偶然会った。
1階から30階まで停止しないシャトルエレベーターに私たちは乗り込んだ。


「高層ビルのエレベーターって各階に停まらないのもあるんだね、私初めてかも」

「各階に停まってたら上層階まで行くのに時間がかかるだろィ」

「それもそうか」


30人程は入るカゴの中に2人きり、私は押しボタンの前に、総悟は端の方で壁にもたれかかって立っている。階数を表す液晶は先程から17階のまま。


「ん……?止まってない?」

「だから途中の階には停まらねえって」

「そうじゃなくて、17階から動いてないようなんだけど……」


まじで?と総悟がパネルを見上げた瞬間、照明がチラついたかと思えば消え暗闇に包まれる。


「え……停電……?ボタン押しても効かないんだけど……え、どうしよう」


視界が真っ暗で何も見えない。
非常ボタンがどこなのか分からないが手当り次第にボタンを連打するも反応はない。


「うそ……。総悟?い、いるよね」


呼びかけるも返事はない。しんと静まり返る空間に背筋が凍る。


「そ、総悟…………?」


返事してよ、と恐怖で声が裏返ってしまう。
この密室で突然居なくなると言うのは考えられないが、あまりにも反応が返ってこないから心配になり、壁を伝って移動して総悟がちゃんとそこに居るのか触って確かめた。


「ちょっと、居るんなら反応してよ!」

「面白ェから黙ってたんでィ」

「やめて、本当に。真っ暗で怖いんだから」


もう逃げ隠れはさせまいと、総悟の隊服の袖をきゅっと掴む。
暫くすると目が慣れてきてお互いの姿が確認出来るようになり一安心する。


「誰か助けに来てくれるかな」


そういえば携帯があるんだったと、淡い期待を抱きながらも折りたたみ式のそれを開いた。


「圏外か……」


携帯を振ってみても電波が届くはずも無く絶望した。

春の夜は冷える。
体を動かさないでいると体温が下がり、怖いのもあってか手はすっかり冷たくなってしまった。手だけではない、全身が寒い。


「おい、震えてんのか」

「なんか寒くって……」

「……隣でガタガタ震えられっと目障りでィ。これ着とけ」


総悟は上に着ている黒い隊服を脱いで渡した。
彼の体温が僅かに残っていて温かかった。


「ありがと」


隊服に袖を通す、私が着ると結構袖が余ってしまう。
総悟は可愛い顔をしているけれど、立派な大人の体格をしているんだと思い知らされる。


「おい、やっぱ返せ。今度は俺が寒くなってきた」

「ええー、やだよ」

「なんでィ、俺のだろうが。返せよ」

「やだやだやだ」

「……しゃあねえな、じゃあ手貸せ。暖取らせろィ」


渋々総悟の手を握ると、ひんやりしていた。
繋いだ手は私の手よりも大きくて、ゴツゴツしていて、日々の鍛錬で硬くなったであろうタコが乾燥で少し荒れていた。


「……この前、子ども扱いしてごめんね」

「なんでィ急に」

「死ぬ前に謝っておこうと思って」

「こんな所で死んでたまるかよ」

「こんな事になるのなら、昨日ビール我慢するんじゃなかった……」

「こんな事になるのなら、昨日土方殺しとけば良かった」


土方さんは今頃くしゃみをしているかもしれないと思うと面白くて少し頬が緩んだ。
笑ったからか温まった私の頬に、繋いでいないもう片方の彼の手が触れる。


「わわ、つめたっ」


そのまま親指が私の唇をそっとなぞる。くすぐったくて目を細めると、総悟の顔が近づき唇が重なった。


「へ…………」

「死ぬ間際にこうしときゃ良かったなんて、後悔するのはごめんだからな」


再び顔が近づいて、不思議と嫌ではなくて私はまた受け入れてしまう。
繋いでいた手は解かれて両頬を包むように顔を固定され、先程よりも長く深く、何かを確かめるかの様に丁寧に。
彼が愛おしくて、じわじわと心の奥底から温まっていく感覚があった。

離れては、また重なる。
総悟ってこんなに優しいキスをするんだ、と少し意外に思った。彼は舌先で私の下唇をなぞったあと、控えめに吸う。湿っぽい音や、吐息がこの静かな空間に響いている。

唇を離すと艶っぽくため息をついた彼は、私を抱きしめた。
彼の程よく筋肉のついた背中に手を回すと、私の首筋に顔を埋めるように頭を動かした。


「くすぐったいよ、総悟」


そう言われ顔を上げた彼はひどく余裕の無さそうな表情をしていて、ドキリと心臓が跳ねる。
ねえ、いつものポーカーフェイスはどこにいったの?
今度は私から、彼の唇に吸い寄せられる様にキスをした。

つい先程までは早くここから出たかったのに、もう少しこのままでもいいかもと思ってしまっている自分が居る。

何度目か分からないキスの途中、パッと灯りが点き、いたたまれなくなり彼から離れた。
あんなにも夢中に、何度も口づけを交わしたっていうのに、私たちは何事も無かったかのように宴会の会場へと向かった。



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