きらきら



「総悟くん?そろそろ首輪を取ってくれません?」

休みの日が被ったので二人で出かけることになった私たち。
普段着物だが洋服も興味があって、どうせなら総悟に選んでもらおうと街に出たけれど、試着しているうちに気づいてしまった。こんなごつい南京錠付きの首輪をしていたら似合う服が限られると。


「なんでィ今更」

「今更ってかずっと取ってって言ってたからね。歩いてても時々首に視線感じるし、着物にも洋服にも合わないでしょ」

「まあ、また気が向いたら取ってやらァ」


君の気が向くのはいつなんだい?
私だって本当は可愛いふわっとしたワンピースとか、大人っぽいタイトなスカートを履いたりしたいのに首輪が邪魔をする。
いっその事パンク系目指せってか?


「ねえ……あのカッコイイ人、真選組の沖田さんじゃない?」


いつか外してもらえる事を信じて服を見ていると、女の子二人組が総悟を指差して、控えめに黄色い悲鳴をあげた。えっなに総悟ってそんなに有名人なの?


「ひゃー!この前ニュースでチラッと映ってるの見てからファンなんだよね。顔が良すぎる。隣にいる女の人は……お姉さんかな?」

「お姉さんにしては似てないでしょ。彼女……ではないか。あの首輪ウケる」

「しっ、聞こえるよ!」


小声で話してるけどばっちり聞こえてるよー!そうだよねーーー、恋人には見えないよねーー!
首輪を笑われた事よりも、恋人にも姉にも見えないと言われた事がショックだ。
ふとショーウィンドウに映った自分たちを見ると、確かに釣り合っていない。なんで総悟は私を好きになってくれたんだろう。もしも女中として働いていなければ私たちは出会うことも無かっただろう。


「おい何ボケっとしてるんでィ……お前さっきの話気にしてんの?」

「総悟も聞こえてたんだ」

「あんなん気にする事ねーだろ」


呆れたように短くため息をつくと指を絡め取られる。
「こうすりゃ少しはそれっぽく見えんだろ」とほんの少しだけ照れたように目を逸らす総悟が可愛くて可愛くて、さっきの女の子たちが言ってたことなんてすっかり吹っ飛んでしまった。見てくれ、君たちがカッコイイと言っていた沖田総悟は私の前ではこんなに可愛いんだぞ!甘えんぼなんだぞ!

「総悟、私暫くお酒控えるわ」

「なんでィ、唐突に」

「女を磨く」

「……お前浮腫んでる時ブサイクだもんな。まあでも手っ取り早く磨ける方法があるぜィ」

「悔しい、何も言い返せない……磨ける方法って?」


手を繋いだままぐっと引き寄せられて、耳元で囁かれた卑猥なワードに思わず熱くなる。
女は抱かれたら幸福ホルモンやらなんやらで肌ツヤが良くなるとかよく聞く話だが、私たちはまだハグとかキス止まりで、それ以上のことはしていない。屯所で暮らしているし、あまり二人きりになることなんて無いからそういうタイミングも無いのだ。


「ま、まだ早いんじゃないかな」

「なに今更赤くなってるんでィ。下ネタ好きだったろ」

「それとこれとは別ですう」


まだ心の準備も、ムダ毛処理も出来ていないし、下着も使い古しの伸びきったものしか持ってない。
下着って滅多に見せない癖にそこそこお値段が張るのよね。

いつかはそういう行為をする日が来るんだろうか。
どんな表情をするんだろう、どんな風にするんだろう、ふと脳裏に全裸の総悟が浮かんで顔が熱くなる。何を妄想してるんだ。


「わっ、私お手洗いに行ってくる!!」


誤魔化すように女子トイレに逃げ込み、妄想ごとトイレに流して個室を出た。


***


「ごめん、おまたせ」

「おい、遅せぇ。うんこでもしてたのかよ」

「混んでたの!女子トイレはいつも大行列なんだから」


当然の様にまた手を握られる。
キスをするよりも手を繋ぐ方がなんだかむず痒くて、周りの目が気になってしまうのは何故だろうか。

それからも私たちはふらふらとショッピングしたりお茶したりとデートを楽しんで、すっかり薄暗くなった街を総悟が運転するパトカーに乗って帰る。


「ふー、たくさん洋服買えたねー!着るのが楽しみ。ちょっと歩き疲れちゃった」

「あんまり他の奴には見せびらかすんじゃねーぞ」

「んー……」


運転中の総悟の横顔をぼんやりと眺めていると、段々と瞼が落ちてくる。
運転してる隣で寝てたら怒られるかな?少しだけ、十秒だけ、と目を閉じた。


***


ふと、首に何かが触れて目が覚める。
車の揺れが心地よくて、ぐっすり眠っていたようだ。辺りはもう薄暗く、寝ぼけ眼のまま首に触れると首輪がない。


「……あれ?」

「お望み通り、外してやったぜ」


総悟の手には、私が先程まで身に着けていた首輪。
重い肩こりから解放されたかの様だった。重いし痒いし恥ずかしいしずっと嫌だったのに、いざ外されると少し寂しく感じてしまう。


「首輪からグレードアップでィ」


彼が袂から小さな箱を取り出して開けると、小ぶりでシンプルだけどどこか高級感が漂うネックレスがキラリと光った。


「え……」

「なんだよその微妙な顔。やっぱり首輪のほうがお好みか?とうとうマゾに目覚めちまったかィ」

「ち、ちがうわ!!」

「じっとしてろ」


総悟は私の首にネックレスを着けた。
ひんやりと冷たかったそれは徐々に私の体温に馴染んでいく。いつの間に用意してくれたんだろうか。


「ありがとう……すごい嬉しい」


総悟の手が私の頬を包む。
キスをするんだな、と目を閉じると柔らかい唇が何度も角度を変えて重なる。時折湿っぽい音がして、吐息が熱く、ドキドキする。
総悟には聞こえてないだろうけど、唇が触れる度に心の中で何度も何度も好きと言った。

外した首輪は、大事にしまっておこう。
初めて総悟に貰った大事なものだから。


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