「…うそだ…
君はチャクラを練っていない…
なのに…どうして傷口が…」


カブトの震えた声が聞こえる。
口調もしどろもどろになっている。


『…どうして…』


姫の声もまた、震えていた。
初めて自分の身におきた、不思議な現象。
何が何だか、わからない。
腕を見ると、完全に完治している。
どちらに傷を受けたかわからないほどに、きれいに治っていた。
痛くない。


『…貴方は知ってたの?
奇跡が起きるとか、どうとか』

「…知るはずがない!
あの状態で奇跡なんて起こるはずはなかった!」

『…じゃあ、これはなに?』

「僕が知るはずないだろう!」


カブトの口調が変わって、とげとげしくなった。
…怒らせてしまったようだ。

それにしても、おかしい。
体がチャクラなしに、しかも私の場合はほとんど力も入らないような状態だったのに、どうして治ったのか。
医療忍術は何事にもチャクラが必要だ。
応急処置程度のレベルなら話は別だが…。
私の場合は貧血と大きすぎる傷口。
…おかしい。
普通の医療忍術のBランクに属する、治療。
それが勝手に…治されたですって?


「奇跡というものは一回きりだ
そう何回も助けてくれはしない!」

『じゃあこれは偶然だっていうの?』

「黙れ!」


怒り任せにカブトが正面から突っ込んでくる。
拳の輪郭がほのかに見えて、姫は右手で受け止めた。


『あなた、何か知ってるんでしょ』


右手を突き出す。
左手で受け止められる。


「知るはずないだろう!
僕は大蛇丸様から何も聞いていない!」


けりを入れられる。
飛んでよけた。


「…くそっ」

『じゃあ、大蛇丸様なら知ってるかもしれない?』

「うるさいな!
少しは口を閉じたらどうだい?」

『!
…その言葉、そっくりそのまま貴方に返すわ』


カブトが三度目、視界から消えた。
…どこ…。


「うるさい餓鬼だな」

『!…うっ』


突如しびれが全身を貫いた。
ブチブチブチ…何かが切れる音がする。
…腱がやられた。
そのうちに、まっすぐ立っていられなくなった。
膝から地面に落ちる。
振り返ると案の定、地面からのびた二本の手が足首をつかんでいた。


『…カブト…』

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