『明日……か…』


空っぽのベッド。
2つあるうちの、1つに身を任せて、窓から見える青白い月を見上げた。
電気はつけてない。
そんな、明るい気分じゃなかった。
いつだって綱手様と2人だった。
なのに隣が開いているなんて、なんか、へん。
あの大蛇丸との取引から一週間がたった。
自来也の説得はうまくいかなかったようで、綱手は相変わらずおろおろしている。


『綱手様…』


そう呟いてみると、綱手がどこか遠くの存在になったようで、悲しくなった。
幼いときに、両親をなくし、一族を亡くした。
確か一族は伝染病で死んだと、聞いた。
もう、どうしようもなかったのだそうだ。
けれど、幼い私だけ、なぜか助かった。
記憶にはこれっぽっちも残っていないが、拾ってくださったのが綱手だ。
口に出しては言えないが、親のように、母のように、慕っている。

と、真っ暗な部屋にドアのきしむ音がして、そのあとに靴音が続いた。
高いヒールをはいたような靴音だ。


『……綱手様!』

「すまなかったな。
遅くなって」

『いいえ、いいんです……』

「…」


目の前にはやつはて、クマを作っている綱手がいる。
ここまで綱手様を追いこむなんて…。
大蛇丸様…許せない。
どうしてあの人は人を困らせるようなことばかりするのだろうか。
…それに取引は、明日。
もう、一刻の猶予もない。
のに、自来也様も手を焼いていて、もうどうしようもない状態。
…もう私が何とかするしかない。


『綱手様は、大蛇丸様との条件を気に入っているのですか?』

「…」

『取引がどうとか、私には知りません。
でも、大蛇丸様は私の前で一度だっていいことをしたことはありません。
今回だって、木の葉をつぶすのでしょう?』

「姫!
黙れ」

『いいえ、黙りません。
木の葉は綱手様が生まれた、育った、大切な里のはずです。
私には里がどこかわかりませんから、なんとも言えませんけれど。
どうして里を犠牲にするのですか!』

「姫!!
いい加減にしろ!」


夜の空気が震えた。
あたりが一瞬静まり返った気がした。
綱手はこぶしを震わせて、唇を力任せに噛んでいた。
いつもなら怖くて身をすくめているだろうが、今回はそうもいかない。
…綱手様にだけは。
信頼できるこの人だけには。
道を踏み間違えないでほしい。


『明日はいかないでください』

「!」


覚悟をきめて叫んだその言葉に綱手は少しばかり目を見開いた。
そしてふっ、と視線をそらされる。


「…いくといったら?」

『…そんなの答えは決まってます。
私が、綱手様を引き留めるまでです』

「生意気だね。
誰にそんな口、叩いてるんだい?」


右から綱手のこぶしが飛ぶ。
しゃがんで、よける。
拳を突き出しては、よけ、つきだしては、よける。
綱手は怒り任せにこぶしを振るっていたし、ここは何より狭い宿だった。


…………え?…………


気付いたときにはお腹に綱手のこぶしがのめりこんでいた。


『…うっ』


やけるような痛みが走る。
綱手はいつだって厳しかったけれど、こんなに殴られたのは初めてだ。
意識が次第に遠のいていく。
目の前の焦点もどこか頼りない。
力が入らなくなって、ベットに横になった。

そしてそのあと。
荒い息遣いとともに、綱手が乱暴に戸を閉める音が聞こえた。
あぁ。
いっちゃう…
やっぱり、私は…
綱手様にとって
どうでもいい、存在なのかなぁ…

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