happy ever after/8

※リクエストもの 第八回 七回目はこちら
※最終話後、西東です。リク内容は後ほど








「行け、イース!いや…キュアパッション!ここは俺達で食い止める!」
「あなたたちを置いてはいけないわ!」
「ラビリンスを頼んだよ、キュアパッション。行くぞウエスター、足をひっぱるなよ」
「お前こそな!」
「ウエスター!」
ようやくわかりあえた黒衣の二人はゲル状生物、ダークマターより生成された疑似生命、コードネーム「ナケワメーケ」の群れへ特攻した。後を追うパッションの腕をキュアベリーが引き止める。
「だめよパッション、今は行きましょう!」
「でも、サウラーが… ウエスターが!ウエスター…!」
「ばかっ!」
パァン、とキュアベリーの平手がキュアパッションの頬を打つ。
「わかってるわよ、あなたは彼のことを…でも、せつな、いえ、パッション! ラビリンスを救うんでしょ!?」
「ラビリンスを…救う… ええ、そう… この故郷を…みんなに、幸せを…」
「涙は後でも流せるわ。行くのよ」
決然としたキュアベリーの姿に、キュアパッションは、目をとじて、二度、深呼吸した。
「……ええ。わたしは伝説の戦士、幸福を司るプリキュア、キュアパッション。行くわ、みんなのために」

そうして、キュアパッションはキュアベリーとともに、最上階、マザーコンピューターのサーバールームへ…



「ニッコニコー!」
監督であるサウラーも出演していたため、キャスケットとサングラスを借り受けていたホホエミーナがカットの声をかけた。
機材班と出演者が、ほっと息を吐く。
「ごめんねせつな、おもいきり打ったわ…手加減してNGになったらやりなおしになるし」
「いいのよ、わかってる」
ラブと祈里が駆け寄ってきた。
「これもずいぶん事実とは違うんじゃないの?」
「実際のところ、気をぬいて「わー」って言いながらふっとばされてった、なんて流れじゃ絵にならないもの、まあ、いいんじゃないの」
「それもそうだね。せつなちゃんおつかれっ」
遠くから「わー」と言う声が聞こえてきた。切れ切れの会話と騒ぎを拾うと、どうも撮影用のナケワメーケ・レプリカにウエスターが取り込まれたらしい。何やってんだか、と肩をすくめた。

撮影二日目。前日と同じく実体エミュレータ空間にて、中盤から終盤にかけての撮影であった。先程撮影していた部分は、例のデリートホールの一件の焼き直しである。アレンジしているかとおもえば本筋は押さえているのが、腹ただしいがよくできていると認めざるをえない。

ウエスターとサウラーの離脱の経緯は違ったが、あのあと、ベリーと二人で走った。
上へ上へ、そればかりを呪文のようにとなえながらも底の無い闇へ消えていくウエスターの姿、苦く笑ったウエスターの笑顔、そして、それまでは互いの主張を順番に応酬するだけであり、「会話」をしたのは、ほんとにあれがはじめてだったということ、そしてそれが二度とかなわないかもしれないことを思わずにいられなかった。そして、もしももう一度出会えるなら今度こそ間違えない、絶対に、絶対に、わたしは、彼と通じ合いたい、わかりあいたい、おなじものをわけあいたい、そのためならなんだってする、できるのに、そう、塔を駆け抜けながら誓ったはずだった。
何度も、誓ったはずだった。



このあとはピーチとパインによるノーザ戦の再現だった。ノーザの代役は、他次元から森の魔女を呼んでいるらしい。収録風景を見てみたい気もしたかったが、疲れた。考えたいこともある…

「イース」
声をかけてきたのはサウラーだった。黒衣ではあるがいつもどおりのサウラー、なのに、このごろのサウラーに感じる厭な気配をなぜだか強く感じて、とまどった。これは、厭な予感なんてものではない、もっと強い…これは、

「キュアベリーからだいたいの話を聞いたよ」
「あ… ええと、美希は何て…?」
「君の気持ちを教えてくれた。今夜、詳しく話し合おう。そうだね…大庭園で2100時に」

にこ、と笑う。いつもの怪しい笑みではない、優しげとも言える笑顔だ…なのになぜ、どうして、彼は友人だ、ウエスターだってあいつのことがすきだ、信用している、そう言っていたのに、どんどん募る、この、

「……あとでね、せつな」

キュアパッションの髪を一房すくい、そのまま流して、宰相は何気なく、ぬるい風のように去っていった。そのときにメーターが振りきれて、否応もなく強烈に自覚してしまう。

これは、この感情は、

嫌悪感だ。




大庭園とは、かつてスーパーマザーコンピューターメビウスの本体が格納されていた空間である。メビウスの自爆により、本部頂上付近は更地のような状態になった。ここにどんな施設を配置するかは意見が割れたが、最終的に、他次元の建築家たちを招き、ガラスやエアーシェルターや、そういったものでしつらえられた、巨大な空中庭園を作り上げることになった。塔のてっぺんが、鉛筆のうしろについたけしごむのように、まるごと温室のようになっているのだ。
ラビリンスの特色は魔法と区別がつかないレベルの高度な科学力である。それは否定することはできない、今後も伸ばして行くべき長所である。だが今後は健全に科学を用いるために、生命を重視していこうということになった。
街路に緑、公園が多いのもこのときの考えに基づいており、この大温室はそのシンボルでもあり、復興後のラビリンスにおける、最初の、他次元と協力しあっての大プロジェクトであった。

2100時に届く少し前、東せつなはその大庭園に足を踏み入れた。地上から数百メートルとはとても思えない、美しく整備された森のような空間である。据え置きの照明器具は存在せず、これも他次元から贈呈された月光花やヒカリゴケ、蓄光キノコ、ランプスズランなどが淡く輝くことで、夜の森を夢のように穏やかに照らしていた。ゆるくランダムに飛び交ったり、閉じたつぼみの上でじっとしたりしている蛍は、サウラーの作り出した自律式の機械蛍である。
時間になる前に、美希に、いったいサウラーへどんな話をしたのか聞きたかった。けれど予想外に撮影が押してしまい、その後、探してもどうしても見つけることができなかった。

不安を抱えたまま、サウラーがいるであろう最奥へ向かう。はたして彼はそこにいた。
四ツ葉町の野外ステージに似た、白いすり鉢状の客席が並ぶ野外ステージ。半円状の覆いがついたステージの前に、白い装束のサウラーが立っていた。発光蘭の淡い紫色に照らされている。
「来たね、イース」
「この姿のときは、せつな、よ」
「どちらでもいいじゃないか。ここには僕らしかいない」
薄い笑み。背筋を得体の知れない虫が這い上がるようなおぞけに震えた。なぜ、彼は、仲間のはずなのに。
「キュアベリーに聞いたときは、さすがに驚いた…そうであってほしいと夢想したことはあったけれど、本当にそうだなんてね。彼女には感謝しなければならない」
「…?」
ゆっくりとサウラーが歩いてくる。胸と胸が触れそうなところにまで距離を縮め、そしていつか占い館でウエスターに向けていたような笑顔。

「きみ、ほんとは僕のこと好きだったんだって?」

その瞬間、憤怒、恥辱、絶望、憎悪、嫌悪、あらゆる真っ黒で凶暴な感情をごたまぜにして、頭から浴びせられたような、あるいは体の内側から噴き出したような、衝撃、そして、比喩でなしに収束した血液が眼球を駆け巡り、目の前が真っ赤になった。

自律神経を奪うほどの激情に体が小さく震えだす、もう怒りなのか絶望なのかもわからない。ウエスター、ウエスターが信じてるって言ったサウラー、わたしが信じた美希、裏切られた、…裏切られた? いちばんさいしょに裏切ったのはだれだ?
知っている、わかっている。冷たいポートレート。わたしだ、わたしの愚行がすべてを招いた。

「だから、もう国のためとはいえ、あいつと結婚するなんて耐えられない、って?
それ、本当なのかい?」

にたにたとサウラーが笑っている。いや、違う、自分の心がゆがんでいるからそうみえてしまうのだ。
これはわたしの罰だ。美希は最も合理的な選択をしただけだ。わたしの秘密は守られたまま、サウラーの手をとることができるのだ。ほかの筋書きでは不可能だった。彼女は裏切ってなんかいない、いない。
左手の薬指が重く感じる。指輪だ。彼からもらった指輪と、それと。

「これ」さえあれば、わたしは、それだけで生きていけるかもしれない…







「………………本当よ」

大丈夫。泣いてない。
低い溜息のような声だったが、震えることもなかった。そうだとしても、きっと別の意味にとられたはずだ。

「そう。ならしなければならないことはいくつかあるね。まあ、長い長い国の歴史においては、小さな紙魚でしかないさ。いずれ誰もがあいつが国王とされていたということは忘れ去る」
そんなわけない、彼はその程度のものじゃない。あんたなんかにそんなこと、
「ええそうね。あやういところでラビリンスは救われたわ」
あんな、あんなに、誰もが慕い、何もかもを楽しみ、無欲の権力者でいられる、奇跡のような、
「言うね、イース。 まあ、ご期待に応えてみせるよ。国王としても、夫としてもね」
お人好しで、単純で、要領がわるくて、想っている、この世のきれいなものすべてを。
「是非ともそうしてちょうだい」
それにわたしのことだって、愛してくれている、ほしい形ではなくたって。
もうそれで充分。


サウラーは、白い手袋をそのままにせつなの頬に触れた。これだけ美しい男だというのに、なめくじに這われるほうがずっとましだと思える感覚だった。
「決まりだね、せつな。僕らのあたらしい関係に調印をしようじゃないか」
調印? 訝る間もなく、僅かに顔を傾けた彼の顔が近づいてくる。そうか彼だとこの程度でキスできてしまうのね、はやと、隼人のときは、あんなに背中をまるめていたのに……


ガン! と大きな音と、微かに揺れて感じるほどの振動が起きた。
反射でそちらに振り返る。


見事な菩提樹の幹を殴りつけ、そのまま微かに拳から焦げたような煙すら発している西隼人が、あの衝撃からはそぐわない、どうでもいい、興味のないテレビ番組を、することもないから視聴している、そんな目をしながらこちらを薮睨みにしていた。







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2010/02/17


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