ご機嫌な鼻唄

『ご機嫌な鼻歌』


久しぶりになかなかの青天な日になった今日。
シャムが、珍しく朝から店に出て棚の薬品達を並び替えながら鼻歌をうたっていた。
なんだか変な歌でもともとそんな歌なのか、それともシャムが音痴なのか…
まぁそれは知ったこっちゃないんだけど……


ある黄緑色の薬品は、使った人に対して安らぎと心の安定を、そして、ある赤黒い薬
品は、使われた人に対して身体が裂けてしまいそうな苦痛を、そして……


この店の存在意味は、僕には解らない。
此処の暮らしは好きだ、シャムに拾われた日から一度も過去に戻りたいなんて思った
事はないんだよ、シャム。
前だけ向いていたい。

「スピカ、この薬品はどんな効果があると思う?」

見せてきたのは紺色の薬。その薬は深い深い青色をしていた。
例えるならまるで暗く静かな夜空。

「……解らない。ぼくには魔法なんか使えないし。」
「そうか…。じゃあこの色からイメージするものは何だい?」
「空……。夜の空。」
「半分当たりだね。お見事。」

シャムはニコッと笑って僕と背の高さを合わせるようにしゃがみ込んだ。

「見てて……」

シャムの色っぽい声が聞こえると、瓶の中の夜空にキラキラと光る粉を撒く。その粉
は瓶の中で舞い踊り本当の星空のように瞬いた。

「ほら出来た。この薬は、安眠の薬。最近スピカの部屋から寝言が五月蠅いからね」
「……」
「この薬をあげようと思って」

寝言……。
僕、寝言を言ってたんだ。恥ずかしい………

「ほら、要らないの?」

薬を差出し、にこにこするシャムは僕をからかっている。
キッとシャムを睨むと頭をポンポンされた。シャムはスッと立ち上がり部屋に戻って
いく。

「ここに置いておくから、今日の夜は飲むんだよ。よく眠れるし良い夢が見られるか
も知れないね……。それじゃあ今度は僕が寝るよ。御休みスピカ。」
「……」

まだ朝なんだけどなぁ。

そうしてまた一日が始まる。