最果ての街

最果ての街





空はもう何十年、何百年も曇天のままなんだって……



だから植物達は光合成が出来なくなってみんな枯れてしまった。水だって通っているのにもうこの地には、緑色が一つもない。辺り一面が真っ茶色。

生態系は全く持ってぐちゃぐちゃで、植物がなければそれを食う草食動物もいないもちろん肉食動物もい…

おっと、忘れてはならない、肉食動物ならいっぱいいるんだ。

この街は可笑しい。











この街の肉食動物は“人間”



人は進化した。崩れた生態系に適応したんだ。



人は、人を喰らう。

それが此処の生態系。皆人肉を喰らう。それが当たり前の事。





此処は、最果ての街。







一切他の街と関係をもっておらず街から出入りする人々は皆この街の者。

行きかう人は皆、重い荷物を背負って、明日さえ見つけられぬまま家路につく。

「よそはよそ、うちはうち」そんな言葉がこの街にもあった。



「ねぇお母さん今日の夕食は何?」

「今日はとっても上質な肉よ、何でも貴族らしいわ」



なんて会話は、そこらで耳にする。可笑しいけど、可笑しな事なんかじゃない、生きていくための努力なんだ悪い事なんかしてない。

生きていくにはこんな事当たり前。





僕はまだ11歳だった………





気づいた時にはもう一人。どこから来たのか、どこで生まれたのかなんて知らなかった。だけど此処に僕はいた。世界に一つしかない僕。

そんなに生きていくことに関して執着心はなかったし、自分がこの世界でどういった存在で何物なのかも知りたくなかった。

もしも知ってしまったなら、心の奥にいる何かが破裂して今のままの自分でいられない気がした。

臆病者だったのかもしれない。





ある時、市場に行きパーツ販売されている人肉を横目に、そこらに捨ててあった腕の肉を見つけ咀嚼をしないで飲み込むように食べた。僕だって胃に何か放り込まないと死んでしまうよ。ごめんなさい。悪気わないんだ。食べたくないんだよ。本当は。
血生臭いような既に腐敗寸前のような、そんな異臭が鼻を狂わせる。



「……ごめんなさい。」



言葉が見つからない。

市場の売人は笑顔で人肉を売っていた。その片隅でなかなか飲み込めない肉を僕は食べていた。

ふと、気付いたら、肉を喰う僕の目の前に真っ白いコートを身に纏った30前後の男性がふわっとしゃがみ込んだ。



「俺の家に来てみないか?」



そう唐突に言われ戸惑う僕の手を取り、市場から連れ出した。食べかけの腕がぼてっと僕の手から落ちていくのがスローモーションのように脳内で映像化された。



「君は、緑を知っているかい?この最果ての街では決して見る事は出来ない色。植物。」

「………」

「俺は、魔道師なんだ。魔法を使える。きっと君を変えてみせる。こんな街だ、やがて可笑しくなっていく。此処で言う真面は真面でない。」


速足で手を引かれ、転びそうになる。

このお兄さんは、どうして僕を見つけて、どうして僕を選んだんだろうか?

まだ口に残る血の味。胃に入った肉塊が軽い胸焼けを興した。



そそくさと速足で歩きたどり着いた場所は、民家。何の変哲も無い。住宅が密集しているかなり安全な場所。直にでも切り刻まれる様子はない。



「さぁ入って。余り長い事戸を開けておきたくないんだ。さぁ……」

「……」



不安と恐怖。しかし、恐々中へ入れば、辺り一面の緑。と草食動物、肉食動物。完璧な生態系。この世の理想が目の前に広がる。



「これは……。」

「素敵な光景だろう?水は此処の。あとは、他の地から取り寄せた植物の種達。それに、此処で一切見る事の出来ない、太陽。この太陽が肝心でね、此処に緑が無いのは太陽が見えないから、太陽は俺の魔法。魔術を生態系に利用させたんだ……。この太陽はマガイモノ。本物とは威力が全然違うけど……」

「……教えて。」

「ん?」

「…僕に、太陽の創り方を教えて。」



白い魔道師はニコッと笑った。







僕はその魔道師から、魔法を学んだ。日に日に増す魔力に僕自身も魔道師も驚いた。才能があったのかもしれない。そして、なかなか魔法と言うものは奥が深い。魔道師は僕に知っている魔法全てを教えてくれた。やがて、強大な魔力を身に着けた僕は白い魔道師よりも遥に強い存在となった。

しかし、どうやら魔道師は此の事を予想していなかったらしい。とうとう自分よりも魔力を持った少年に嫌気差した。殺気に満ちた魔道師は僕を殺そうとしたが、魔力の差は歴然。僕は魔道師を返り討ちにした。

蘇るあの時の光景。

僕の手から滑り落ちて行った腕の肉。そして、今。目の前で呻き血を吐く魔道師。二つが何故か同じに見えた。………魔道師は、死んだ。僕は、初めて人を殺した。それは、此の街の住人と同じになった事を指していた。反吐が出る。

同じにはなりたくない………



「……此の街を出よう。」



僕は決意した。



そして、街を出る間際、魔道師から初めて教わった魔法を街に翔る。

ごめんなさい。ありがとう。……さようなら。

そして、街を後にした。







その後、街には緑が映え人は人に戻ったという。