「あーかやくーん」

さっきから何度呼びかけても反応は無い。
もう一度今度は声色を変えて赤也くんってば〜なんて甘えたように声を掛けてみたが、応答なし。

「赤也〜いい加減機嫌なおしてよ〜」
「ヤダ」
「もー…ちょっと仁王、お得意のイリュージョンでなんとかして」
「イリュージョンはそういうのに使うモンじゃなか」

赤也は完全に拗ねちゃってもう手のつけようがない。
とはいえ、赤也とは高校のときから付き合っていて、かれこれもう3年になるのだ。長い付き合い故に彼の機嫌を損ねた理由はだいたいわかっている。

「赤也くーん、飲み会行ってごめんね。でも女の子もいっぱいいたからー」
「そういう問題じゃねえじゃん、何で俺に言わないで行ったんだよ」
「言えば行ってもいいの?」
「……ダメ」
「ねー仁王〜」
「なんで俺に振るんじゃ…」
「ブン太、どうしよー」
「なぁそんなことよりこの手羽先まじで死ぬほどうまいから食ってみ」

コイツは今日も今日とて食べ物のことばっかり。
仁王だってさっきから何にも食べず酒ばっか飲みまくってるし。

「赤也くん、謝るから、こっち見ておねがい」

頬に触れながらそう呟いてみれば、ピクリと反応する赤也。
ああ可愛い、彼はどんなに不機嫌でもこうやって反応してしまうのだ。わたしが何をしたって結局は許しちゃうの。

「おい赤也〜飲み会くらい許してやれって。二女は飲み会行くのが義務みたいなとこあるし、お前だって普段行ってんじゃん」
「そーだそーだー」
「俺らのは女いないじゃないっスか。なまえのは男ばっか!」
「だってそもそも大学自体が男子のほうが多いしさ、そしたらサークルも必然的にそーなるし仕方ないでしょ?はい赤也、コーヒー牛乳」
「カルーアミルクじゃん…」

赤也はぶつぶつ言いながら小さめのグラスを一口で空ける。飲み込んでから、割合おかしいだろこれ、と顔を歪めた。まあわたしが適当に割ったから。

「つーか仁王は最近どうなの?」
「どうもないけど」
「やっぱ仁王ってホモ?」
「女の子ってすぐホモホモ言う」
「ごめんねなんか言いたくなる」
「彼女とか面倒じゃし別に今いらん」
「でた、彼女いないほうが楽しいし、そもそも彼女は作るとか作らないとかじゃない的なこと言うやつ」
「みょうじうるさいからもっと飲みんしゃい」

仁王とじゃれついている間にもブン太が赤也に飲ませたりして(ブン太自分はそんな飲まないくせして)、赤也も赤也でむしゃくしゃしているからか、いつもより相当早いピッチで飲み進める。

「てかブン太は?彼女とどう?最近」
「あー別れた」
「は!?」
「早いんスよいっつも丸井先輩はぁ!」
「やー俺彼女とかいうのってあんま好きじゃないかもしんないって最近思ったんだよなぁ。だから仁王の気持ちわかるわ。あ、ホモじゃねーから、女の子はマジ好き」
「なんなのあんたら…」

ゴンッと鈍い音がして、見ると赤也が完全に突っ伏してしまっていた。
枝豆の皮が赤也の髪にくっつきそう。

「あーブン太が赤也いじめるから」
「途中から自分で飲んでただろぃ」
「赤也〜そろそろ帰るよ〜」
「ん〜…まだいる」
「もー」

赤也起きて〜と肩を叩けば、突っ伏している腕の隙間からチラリとこちらに視線を寄越す赤也。それが可愛くて思わず微笑むと彼も気を良くしたのか、へへっと笑った。

「なまえ〜ちゅ〜」
「ほら行くよ、はいとりあえずこれ水」
「ちゅーしてくれたら帰る」
「はいはい、ちゅー」
「ちゃんと口にしてくんなきゃ帰んない〜」

そう言って口を尖らせる赤也はちょっと面倒くさいけどやっぱり可愛い。公共の場だからね〜なんて説得していたら、ブン太と仁王がちょっと距離をとりながら嫌な顔でこっちを見ていた。

「は、俺ら後輩と同期の何見せられてんの」
「なんか腹がシクシクしてきた」
「俺も」
「丸井のは食いすぎじゃろ。ほれ、会計ボタンそこじゃ」




会計を仁王がまとめて済ませてくれて、やっと店の外に出る。
地下の酔っ払いしかいない籠った空間から解放されるこの瞬間、最高!

「ちょお仁王せんぱい、アンタ飲んでましたぁ?」
「飲んでた飲んでた」
「あれ、なまえは〜?」
「ハイハイ、ここにいますよって」
「おいみょうじ、正気失ったときの赤也係じゃろ。ちゃんとしっかり相手しんしゃい」
「はーい。あー可愛い〜」

そう言ってホクホクしてたら仁王に呆れた目でみられた。
僻むなよ、草食系イケメン。

「はいじゃあ解散!お前は赤也シクヨロ!」
「ちょっわたしだけで連れて帰れと?!」
「彼女の役目だろぃ?それに俺ら、散々中高で赤也の面倒見たから」
「見たところ、フラフラだけど歩けとるしのぅ」

赤也はわたしの名前を呼びながら肩口に額を擦り付ける。猫か!と突っ込んだらブン太がニヤニヤ笑ってた。


フラフラの赤也に肩を貸して歩く。
時刻はもう0時を回っており、2限あるとか言ってたけどこの様子じゃ赤也は昼まで爆睡コースだろう。

「な〜なまえ〜」
「んー?」
「俺のことすき〜?」
「すきだよ」
「うそだ、俺のこと弟みたいな扱いしてくるくせに」

だって可愛いんだもん、という言葉をぐっと飲み込んで曖昧に笑って返した。男の子って可愛いって言われるのあんまり好きじゃないもんね。

「俺は〜なまえのことちょーすき」
「はいはいありがと」
「なまえが他の男と話してると〜そいつブッ潰してやりたくなるくらい」

いやいやめっちゃこわいんですけど、いちいち会話したくらいでブッ潰されてたら堪んないんですけど。

「仁王先輩とか丸井先輩でもやだけど〜いちばんやなのは幸村ぶちょ」
「え、幸村くん?どうして?」
「だっておれ、幸村ぶちょーには勝てないし」

ピタリと足を止めた赤也の顔を覗き込めば、酔っているはずなのに妙に切なげな表情だった。勝てないなんて、プライドの高い赤也は普段思ってても絶対口にしないのに。

「幸村ぶちょー、なまえの好みの顔してるし、おれなんも、勝てない」
「わたしは赤也がすきだよ」
「ほんと?」
「うん。見た目も性格もわたしに甘えてくるとこも甘やかしてくれるとこも、普段の赤也もテニスしてるときの赤也も。だいすき」

ここまでペラペラと喋ってから、こんなこと言うなんてわたしも酔ってるのかなとぼんやり考えた。赤也の至極嬉しそうな表情を見てわたしも嬉しくなった。

「じゃー結婚してよ」
「えっ?」
「だいすきならさ、結婚して。大学卒業したら」

初めて言われた言葉に目を丸くする。
私の腕をすり抜けて、赤也は道路の白線の上をはみ出さないように歩いている。

「仁王先輩でも丸井先輩でも、幸村ぶちょーでもなく、俺と」
「……言ったな?」
「うん、言った」
「明日もう一回聞くからね」

赤也の頭は単純だから、大好き=結婚という考えに至ったのだろうけど。

私も大学生活2年目なので、酔っ払いの戯言は本気にしちゃいけないってわかってる。
だけど幸村くんの話を持ち出してまでそんなこと言う君に、ちょっとドキドキしたんだ。

なまえーーすきだーー!と道端で叫ぶ赤也の頭をはたいて、わたしたちは再び歩き出した。


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