「なーみょうじ、法学部ってやっぱ忙しいの?」
「忙しい、超忙しい」
「バイトはこんなに入ってんじゃねえか」
「お金は欲しいから」
「つーか流れてくるSNSのTL見る限り、結構普通に友達と遊んでんじゃねえか。山田さんとか望月とか」

もう、何が言いたいの。
食器を並べる手を止めて丸井くんを一瞥する。彼は生クリームを泡立てながらこっちを凝視していた。

「俺とも遊べって」
「いや、いい」
「何でだよ!」

この間、丸井くんの友達がこのカフェを訪れて以来、彼は明らかに積極的になった。何度もめげずに遊びに誘ってくる。

「遊んでも良いけどさ」
「マジで?!」
「うちら共通の友達ほとんどいないじゃん」

それこそあんたの元カノしかいないじゃん。

「いや二人でだって」
「それはちょっと」
「おい何でだよ」
「丸井くんこそ何でそんなにしつこいの?そんなにわたしとデートしたいの?」
「おう、したい」

そんな真剣な眼差しで言われても、たとえ立海大イケメンランキングトップ5に入るあなたに言われても、無理なものは無理なのだ。やっぱり友達と気まずくなりたくはない。
呆れつつ無視して食器を並べる作業を続けていると、カランカランと入口の鐘が鳴った。お客さんが来た証拠だ。お出迎えしないといけない。

「いらっしゃいま…せ」
「よう。また来たナリ」
「どーもっス!」

来た。例の奴らが。
だけではない。前回よりも増えている。

「4名だ。禁煙で頼みたい」

かしこまりました、とだけかろうじて答えることが出来た。
この間のメンバーに、法学部主席の柳くんが追加されている。

「君は…、たしか法学部政治学科のみょうじなまえだな」
「初めまして」
「柳蓮二。同じ法学部だ。学科は違うが」
「存じておりますけれども…」

この大学にいてあなたを知らないはずは流石にないですけれども。

「みょうじさん久しぶりじゃのぅ」
「どーもっス!」
「どうも…」
「また大勢で詰めかけて悪ぃな」
「いいえ…」

銀髪の彼と天パ吊り目の彼のこのニヤついた表情。なるほど読めてきた。
彼らはバイトしている丸井くんを見に来ているのではない。元カノの友達であるわたしを落とそうとしている丸井くんに興味があるのだ。

「早速注文をいいだろうか」
「はい、どうぞ」
「あっ俺俺!コーラで!柳先輩どーします?」
「アールグレイティーで頼む」
「んーブレンド」
「あ、俺もブレンドにするぜ」

かしこまりました、とオーダーを書いてキッチンへ向かう。
この時間はお客さんが少ないので、ドリンクはホールであるわたしがやることになっている。
手早くドリンクを作り持っていくと、黒髪の男の子がつまらなさそうに口を尖らせる。

「えーまじすか、じゃーすんません、ティラミス追加お願いしてもいいっスかね〜」

彼らはわたしと丸井くんがやり取りするところをどうしても見たいらしい。

「丸井くん、ティラミス1で」
「お、おう。てかあいつらなんでまた来てんだよ、やめろっつったのに!」

こういう内輪ネタが心底面白いのはとてもよくわかる。とはいえこういう場合、対象となるほうは冷静でしかない。

「お前あいつらに何か言われてねえ?大丈夫か?」
「なんかまあ…期待に胸ふくらませて頂いて申し訳ないけど、って感じではある」
「いやほんとそれな。今んとこ脈ゼロだっつーの。つか言わせんな」
「丸井くんてさ」

一瞥すると、ちょっと動揺した様子の丸井くんが作業の手を止めてわたしを見る。

「んだよ」
「超超超モテるっしょ?」
「はあ?」
「ぶっちゃけ困んないくらいモテるでしょう丸井くんて」
「な、なんだよ急に」
「なんでわたしに構うのかなぁって。暇なの?それか何か常に刺激を求めたい的な性格とか?」
「だーから、まじで俺、みょうじが好きなんだって」

そう言うと、丸井くんは持っていたおたまをバシッと作業台に置いた。
"好き"というワードを躊躇なく使うとは思わなくて、ちょっと詰まってしまった。
異性からここまでストレートに言われたことはないかもしれない。

「えーっと、一目惚れってこと?」
「そう言われちまうとなんか簡単な感じするけど…、まあ早い話がそれだ」
「いや全く信じられないんだけど…。あ、お客さん来た。ティラミス、よろしくね」

カランカランと新規来店の鐘の音がして、ホールへ戻ろうとしたとき、丸井くんが呼び止めるように声をあげた。

「今日!」

思わず振り向くと、丸井くんはそのまま続けた。

「17時上がりだよな?そのあとちょっと時間くんねえ?」

頼む、と付け足した彼の顔は真剣そのもので。
わたしはつい頷いてしまったのだった。


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