「いや飲み過ぎやって。自分そんな酒強くないやん」
「うるさいなあ。謙也、どうせあんたも女の子はCカップくらいがいいとか言って、脱がせたらあれCってこんな微々たるモンなんだって勝手に落ち込んだりするんでしょ?ほんとキモいんだよ死ね」
「コイツめっちゃ喋るやん」

今日は高校の同窓会。美容院でトリートメントしてもらって服も新調して、スーパーななまえちゃんで登場したというのに。

「なんで白石あっちのテーブルなの〜!しかも女の子たち群がりすぎ、腹立つ!わたしが一番最初に目つけた男なんだけど、白石は!中1のとき!」
「こんな自分に正直すぎる女初めて見たっちゅーねん」
「謙也悔しくないわけ?女の子取られてるよ。こんなシケたテーブルいても良いことないのにね」
「ホンマにな。お前が俺の裾引っ張るんやめてくれたらすぐにでもあっちのテーブル行くんやけどな」
「ごめん嘘、行かないで頼む。謙也をエサにしてるから今」

白石ー、ほらほらニコイチの忍足謙也はここだよー。

「お前ホンマ馬鹿正直すぎるって、もうちょい隠せや」

白石、来ないかな。

第一ね、高校のときはグイグイ来る女の子きらいって言ってたじゃん。それなのに何だ、社会に出て慣れましたってか。白石が好きなくせに嫌われまいと、グイグイいかずに大人しくしていたわたしが馬鹿みたいじゃないか。
謙也は、酔いの回ったわたしがこれ以上お酒を飲まないように、監視役として派遣されたらしい。ふん、知るか。ヤケ酒してやる。

と思ってそこらへんにあったジョッキを引き寄せたとき、隣のテーブルの白石が席を立ったのが見えた。そのままこっちに来ないかな、と頬杖をついて見つめていたら、何と彼は本当にこっちにやってきた。

「よ、みょうじ。自分さっきから飲みすぎとちゃう?」
「しらいし…」
「ん?どないしてん」
「白石が来た…謙也ぁ、白石来たよ〜〜エサ役ありがとーー!」
「ハイハイ良かったなあ。どっちかっつーとベロベロすぎるお前自身が引き寄せたんやで」

改めて見る白石は、それはもうアホみたいにカッコよかった。スーツがこんなに似合う男性が世の中にいるだろうか。
感激して余計にお酒が進む。

「アカンて。これは没収。自分はそこのチェイサー飲みや」
「あー」

白石はわたしからジョッキを奪い、半分以上残っていたそれを飲み干した。
そんなとこもカッコよくて無理だ。

白石と話すことが出来た。それだけで今日来た意味があるというもの。ミッションコンプリーツです。

「みょうじはどうなん、仕事」
「楽しいけど社畜だよ」
「そっか、広告やもんな」
「えっ白石、わたしの仕事知ってたの」
「知ってちゃアカン?」
「あーんちょっと謙也聞いた?この切り返し、爽やか!レモンの香り!」

謙也はすこぶる呆れた視線をわたしに送ったあと、面倒くさいわたしを白石に押し付ける形で退散してしまった。

そうなのだ、わたしという女は酔うとめちゃくちゃ面倒くさくなるのだ。あーもうこれ明日起きた時に大後悔祭り決定だな。

「白石は仕事どお?製薬会社だっけ?」
「せやで。膨大な毒の知識は特に役立たへんわ。技術職やったらまた違ったかもしれへんけど」
「白石、総合職だもんね。ていうかまた男前になった?なんかクスリでもキメてんの?」
「なんでお前は素直に褒められへんのや」

そう言って白石は眉をハの字にしながらも楽しそうに笑う。

ああ、好きだなあ。学生時代もこんな感じで、異性らしさなんて微塵も見せることができずに終わった。男前とかそういうことはたまに言うけど、あくまでも冗談っぽく。
変にそういう仲になっていつかフラれるくらいなら、友達の方が断然いい。
白石を拝めなくなったら、わたしは生きていけないんじゃないかってくらい、ずっと昔から彼だけを見てる。

「二次会行くか?」
「うーん、悩んでる。白石は?」
「俺は明日早いから行かんことにした」
「そっか」

じゃあわたしも行かない。

「みょうじ」
「うん?」
「その、胸元気ぃつけや。さっきから危ないで」

白石が珍しく照れている。いつも余裕な顔した彼が。
そう思ったら、わたしの嗜虐心が目覚め始める。

「えっ見えた?白石のエッチ」
「エッ…しゃあないやろ見えるんやから」
「白石が照れてる!珍しい、スーパーレア」
「男をからかうモンやないで。あんま見んといてや」

大きな骨ばった男性の手で、両目を覆われる。白石もちょっと酔っているみたいだった。お互い酔ってるなら、良いんじゃないの?とわたしの中の悪魔が囁く。
気づいたら、視界を奪っていた彼の手を絡めとり、掘りごたつの下できゅっと握りしめていた。
握り返してくれたところを見るに、やはり彼もそこそこ酔っている。

「…何してんねん、みょうじ」
「白石こそ握り返してんじゃん。ほどいてもいいんだよ?」

手を絡めたまま視線を送る。ああーかっこいいめっちゃすき、すごいすき。
そんなわたしを見て、白石は小さく息を吐いて苦笑いした。

「みょうじって、酔ったらいつもこうなん?」
「なわけないでしょ」

やりすぎた?引かれたかな。
手を離そうとするが、彼がそれを許してくれない。

「何してんねん、お前」
「こっちのセリフなんだけど、馬鹿」
「もうそろそろお開きやんな」
「そうね」
「みょうじは、二次会行かんやんな?」
「白石ってずるいよね…そういうとこほんと嫌いだよ」

好きが高じて逆に嫌いだよ。

「嫌いとか言わんとって。こういうときのスマートな誘い方わからんねん」
「一個良い?」
「何?」
「彼女いたりする?」

そう尋ねると、白石は首を横にふるふると振った。

「嘘つくな、いないわけあるか」
「いて、ホンマやもん」
「もんとか言うな可愛いムカつく」

急に白石がわたしの肩に頭を預けてきた。ぎょっとしていると、悪戯っぽく彼は言う。

「飲み過ぎた、アカンこれ二次会行けないから家が近いみょうじに送ってもらうわ、っていう体で行くか。協力してや」

ざけんな。自分で言うのもなんですけど私のほうがベロベロだわ!家も全然近くないし!

「嫌い、白石」
「おおきに。俺からも一個ええ?」
「何」

頭をわたしに預け、こっちを見ないまま白石は続けた。わたしはというと、お酒のせいかこのせいかわからないけれど動悸がやばい。

「俺のこと男として見とった?」
「は」
「高校んとき」
「見てないわけなくない?」
「……ホンマか?」
「ほんとずるいムカつく、気づいてたくせに」
「俺も」
「え?」
「俺もやから」

何に対する俺も?と聞く前に、白石はわたしに寄りかかったまま眠ってしまったのだった。


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