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今日は一緒にいたい。そう言うとクーは、しょうがねぇなと言いつつも真っ赤な顔はそのままで、逆戻りしていった。何だかんだといいつつも、一緒に過ごしたいのは同じなのだ。
早速と箱を開けると、想像以上の出来栄えでガトーショコラが入っていた。クーが料理、ましてやお菓子を作れない不器用人間であることはよく知っている。だから、いくら手作りを所望していたとはいえ、もっと簡単なものだと思っていたのに。驚いて目を丸くしているユーリに、クーはどこかふくれっ面で口を開く。
「俺だってたまには出来るんだってことを証明したくて…でも、それ簡単な作り方を教えてもらった……ジュディスに」
バカみたいだけど、たまにはクーの手作りなものを欲しくて。結構挑発したものの、傷付けるつもりはなかった。それは申し訳ないなと思う。だが、クーは分かってない。肝心なのは、誰に教わることではない。
「教わったとしても、作ったのはクーなんだろ?」
「…そうだけど」
「なら、頑張ったのはお前自身だ。すっげー嬉しい。サンキュ、クー」
「う、うん……」
どこか恥ずかしくなったのか。触れようと手を伸ばしたユーリから逃れるように立ち上がったクーは、勝手知ったる何とかでフォークを持ってきた。さっさと食えと手渡してくる。ずいっと顔に近付けてくるのは、ちょっと危ないのだが。今は余計なことを言わずに、素直に受け取った。
一口サイズに分けて食べたユーリを、クーは横目でじっと見つめる。今すぐに横にちょこんと座った誰かさんを食べたくなるのをぐっと堪えて、まずは目の前のチョコを味わる。少々焦げていたが、初心者が作ったものとしては上出来だろう。むしろ、完璧かもしれない。
「うん、美味い」
「…本当に?」
「嘘言うかよ。マジでうまい」
そっか、とどこかホッとした顔で言うクー。勢いで手作りを選んだとはいえ、初めてのことだったから不安だったのだろう。なのに作ってくれた。美味しいと言わせたくて。クーにだって作れると、そう言いたくて。
「つーか、食ってないのか?」
「試しに作った奴は食ったけど…」
「ああ、これは食えねーもんな。ほら」
クーが食べやすい大きさに分けて、口元に運んでやる。躊躇っている彼女に、強引に食べさせる。味に問題はないと分かると、先程までの自信なさげな顔はどこへやら。途端にいつもの自信満々な表情へと戻った。そうそう、彼女はこうでないと。
「どーだ、みたか!俺だってやればできるんだぜ!!」
「ああ、オレの負けだな」
「よっしゃ!!ユーリに初めて勝っ…」
別に賭けをしていたわけではないけど、ユーリにぎゃふんと言わせてやれた。そう歓喜しているクーに口唇を重ねる。こんな狼の前で、あまりにも無謀すぎるその唇は甘い。チョコを食べたからなのか。いや、クーは元々どこもかしこも甘くて、何度でも食べたくなる。唇も、その全身も全て、自分だけに見せる女の顔になった彼女を。禁断症状が出るくらいに、依存をしているなんて知らないだろうけど。
「な!?急に何を!?」
「我慢の限界なんだよ。さっきから、煽ってくんの自覚してねーだろ」
「はあああ!?あ、あお!?つーか、もう食ったのかよ!?」
いつの間に、って顔をされても。ちゃんと味わって食ったし、美味かったから手が止まらなかっただけだ。それに、やっぱりまだ物足りない。
「ごちそうさん。美味かったから、来年も期待してるからな」
「ら、来年も!?つーか、どこ触ってんだ!?」
「どこって聞きてーの?」
「言わんでいいっつーの!!つーか、その前にホワイトデーに寄越せよ!!」
「おう、期待して待っとけ」
ちゅっと頬に口付けし、赤くなった耳を甘噛みする。それだけでビクンと震えるクーの体に手を這わせる。制服の下にある肌の感触を味わっていると、抵抗しようとユーリの肩を押していた手が、服を掴んできた。どこか息が荒くなっているクーの耳元に唇を近付けて。
「次はクーを食いたいんだけど。…嫌か?」
ここまでしておいて、意地悪な質問だけど。本当に嫌がっていたら、止める。正直辛いけど、彼女が本気で嫌なら、無理強いはしたくない。嫌われるのは本意ではないから。
「……ろ」
「ん?」
「い…いちいち聞かなくても……好きなときに食えばいいだろっ!」
そんな顔を真っ赤にして、爆弾発言を落としてきやがった。お前、本当に意味が分かっているのかと問い詰めてやりたい。それって、ユーリの好きなようにしてほしいと言っているようなもんだけど。まあ、自覚はないんだろうな。
「なら、好きなだけ食わせてもらうからな」
「だ、誰もそんなこと」
「自分の発言には責任持てよ。散々煽ってくれたんだ、今日は眠れないと思っておけ」
「は!?まだ夕方…」
どんだけヤル気だよ、というクーの口を塞いで、彼女を寝室へと運ぶ。ベッドの上で覆い被さると、急に大人しくなるクーに何度も口付けを送る。
後はもう、二人だけの時間の始まりだ。
end
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