ユリルク編 1

これ、貰ってください。

そう言って差し出されるのは、綺麗にラッピングされたバレンタインチョコ。今日、2月14日はこうやって声をかけられるのが最も多い日だ。緊張しながらも上目遣いで渡してくる見知らぬ女に、ユーリは本日何度目かの同じセリフを口にした。

「わりぃけど、彼女いるから。そいつは受け取れない」

ユーリが口にしたいのは、たった一つ。昔から恋焦がれて、やっと手に入れた最愛の恋人のものだけだ。毎年、ぶつぶつと文句を言いながらも結局は用意していてくれる。ぶっきらぼうに渡されるけど、いつもその顔は真っ赤で。本当に可愛くてどしてやろうかと思ってしまう。そんな彼女が待つ、一人暮らしをしている自分が住むマンションに早く帰ろうと急いでいるのだけど。何度もこうやって足を止められるのは、正直勘弁してほしい。

「に、二番目でもいいんです!!」
「…あ?」
「遊びでもいいから…一度だけでもいいから……好きなんです!ずっと、ずっと好きだったんです!」

ああ、こういうタイプが厄介だ。一度だけでもいいから、と告白してくる女はこれまでもいた。あいつと両想いだと知る前までなら、遊びだと割り切れる相手と一晩を過ごしたかもしれない。だが、今はもう知ってしまったから。クーという、ただ一人の女を。

「断る」
「ちょっと!!そんな言い方ないでしょ!?この子がどんな思いで…!!」
「知るか、んなもん。一晩だけの相手を探してんなら他当たれ。オレは彼女いるから無理だって最初に言ったはずだ。つーか急いでんだよ。邪魔だ」

ビクリと震える女達に目もくれることなく、さっさとユーリは歩みを進めた。全く、どうして女っていうのは、集団でこようとするかね。いつまで経っても女は謎だと思ってしまう。

少し遅くなってしまったが、駆け足でマンションへと入っていく。こんなことなら、車で行けば良かった。いや、駐車場代のことを考えるとやはり電車をとってしまう貧乏性なのが憎い。あいつ、癇癪おこして帰っていなければいいのだけど。バレンタインを抜きにしても、平日に会えるのは限られているから。週末は泊まりにくるけど、やはり学校がある平日はそういうわけにはいかない。本当は、毎日でも泊まっていけばいいのに、と引き止めてしまいそうなのを堪えている。我慢するなんて、あいつの為なら何てことはない。こんなにも想っているのに、当の本人にあまり届いていないような気もするけど。これでも一途なんだけどな、とエレベーターの中でユーリは溜め息を吐いた。

少し期待をしながら部屋の鍵を開け、中に入るとすでに先客がいた。靴の置き方で、誰かなんてすぐに分かる。良かった、待っていてくれた。部屋の中にいるだけで、気分が高揚していく。我ながら単純だな。

「おかえり」
「ただいま」

ソファーに座ってテレビを観ていたクーが振り向く。その様子にあまり変化がないように見える。まあ、急いで催促することでもないだろうと内心落ち込みながらもコートやマフラーを置きに寝室へと入る。

(いつだったか、あいつの体から甘い匂いがしてたからもしかして、なんて思ってたんだけどな)

たまには手作りが食べたいなんて思って、催促した自分だけど。年に一回ぐらいはそんなワガママを言ってもいいかなと。軽く挑発をしたのはいいが、きいてなかったのか。コートを脱ぎながら、そう思った時だった。

ベッドの上に、(少々いびつに)結んであるリボンと可愛らしいハート型の包装紙に包まれている箱を見つけたのは。

「…………これ」

誰かからなんて、聞かなくても分かる。結構な重さがある箱を手に持った時、玄関の方から物音が聞こえた。逃がしてたまるか、と急いで玄関へと向かう。そこには、靴を履くのに少々悪戦苦闘しているクーの姿があった。しっかりとコートまで着ているということは、ユーリが寝室に入った時には帰る準備をしていたということだろう。

「きょ、今日は帰る」

耳まで真っ赤にして、さっさと出て行こうとするクーを後ろから抱き留めた。逃げようとバタバタと抵抗するクーの耳元で囁く。こうされるのが、彼女は弱いと知っていて。

「帰さねーよ」
「っ!!」
「ありがとな。すっげー嬉しい」

その途端、抵抗するのを止めたクー。朱色の長い髪に負けないぐらいに、頬が赤く染まっている。本当に、可愛くてしょうがない。こんな可愛らしいサプライズも。照れて逃げようとしても、結局はこうして大人しく胸に抱かれているのも。全てが、愛しい。

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