レジスタンスがするのは、暴動だけではない。預言を廃止することになった、キムラスカ、マルクト、ダアトのそれぞれの長達の命。そして、それを提示したジェイドやナタリアだけでなく、かつての仲間達にも刃が向けられたのである。ここ最近はずっと、命を狙ってくるレジスタンスとの戦いも日常化しつつあった。嫌な日常ではあるが、仕方ない

アッシュが帰ってきて、一ヶ月が経過した。あれから、仲間達とは会っていない。いや、ガイは仕事上会うが、世間話を少ししたらすぐに別れるようになってしまった。その原因は自覚しているが、互いにそれを出すことはしない

「―――今、何と?」

ピオニーから、部屋に来いと言われ、ブウサギに囲まれている彼に近付くと耳を疑う発言が出た。正直、いくら幼馴染とはいえ臣下が主の部屋をそう易々と入れるものではないのだけど、今は助かった。他の者がいたら、咎められるだろうくらいには動揺を隠せないから

「……正式に、公表した内容だ。ナタリア殿下と再度婚約を決めたのは、英雄ルーク・フォン・ファブレだと、な。つまり、帰ってきたはずのアッシュは、ルークとして生きると決めたということだな」

それは、つまり。嫌な考えが浮かんでしまう。それが当たらないことを強く願うが、ピオニーの顔はもう答えを書いているかのように硬い表情であった

「周りが、英雄が帰ってきたことを民間人が聞けば、心強くなるからという理由だと、先程ガイラルディアがナタリア殿下から手紙で聞いた話だ。本人はかなり抵抗したようだが、父親や周りからの説得で了承したらしい。これもガイラルディアから聞いたことだから、どこまでが本当かは分からんがな」

怒りを抑えるように、手を握りしめる。グローブをしているから爪が手の平を食い込むことはないが、素手だったら確実に血を流していたことだろう

キムラスカは、ルークを何度殺せば気が済むのだろう。預言で見捨て、瘴気を消すのにその命を削らせて、最後にはローレライを解放するのに死を選ばせた。そして、今度は存在さえも消し去るというのか

「お前さんに、招待状が届いているぞ。アッシュが次期女王陛下と、公に出るんだと。英雄が帰還した記念パーティだ。まぁ、パーティの前に公の場で演説をするそうだが」
「―――私は」
「おっと、俺の代理で出席しろ。いいな?」

どういう思惑がピオニーにあるのかは知らない。が、酷なことを言っているのは自覚しているらしい。ジェイドのルークに対する気持ちを知られているということか。相変わらず聡い幼馴染である

「―――御意に」

恐らく、命令でもなければキムラスカには行くことはないだろう。あそこに行けば、ルークがいないことを強く実感してしまう。それが、怖い。命の尊さを分かっていなかった過去の自分が見たら、きっと情けないと鼻で笑っていたかもしれない

正直行きたくはなかったが、ピオニーの命令とあれば行くしかなった。仕方なく、旅立つ準備を始めるのだった



時は少し遡り、バチカルへと進む道で貴族の護衛をしている黒髪で翠色の瞳をした青年がいた。寝食の金稼ぎと、情報収集が目的であった。青年の強さに、貴族は破格の報酬を払ってくれたのだ

「レジスタンス、か。やっぱそう簡単じゃねーよな」

バチカルに着いて、貴族を自宅まで送ると、仕事は完了した。青年は久しぶりに見る街を見つめる。二年前より、どこかピリピリと張り詰めている人々。いつレジスタンスの暴動が起こるかと緊張しているのだろうか

「ねぇ、聞いた?ルーク様が帰ってきたんだって!」
「え、それホント!?英雄が、本当に帰ってきたの!?」
「何でもナタリア様と婚約を再度したようよ。これで安心だわ。英雄がいてくれたなら、レジスタンスも怖くないもの」

一気に街の人々があれやこれと噂を広めていく。どこまでが本当かは知らないけど、ローレライが言っていたとおり、無事に帰ってきていたのか

「―――良かった、アッシュは……ちゃんと本来の場所に戻ったんだな」

ほっと息を吐く青年―――いや、髪の色は変わっても目の色はそのままであり、本来の英雄ルークがそこにはいた。服装もがらりと変わっており、ルークを良く知る者でも、マジマジと見つめなければ分からないくらい、別人になっていた

先程の貴族から、かつての旅を共にしていた仲間達がレジスタンスに幾度も襲われているという。まぁ、彼らの強さなら大して心配なく返り討ちにしているようだけど、今度はアッシュも狙われるということだろう

心配はないだろうけど、その無事を見届ける為に、バチカルに残ることに決めた

(まずは宿探しだな。アッシュが公に出るとなると混むだろうしな)

かなりいい報酬を貰ったから、当面は困らないだろうけど念には念をいれて、なるべく安いところを探しに歩き始めるのであった

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