二年間、彼を待ちわびていた。自分で、彼の逃げ場を無くし追い詰めておいて、帰ってこいなんて虫がいい話だ。でも、どんなに自分勝手な話でも彼に帰ってきてほしかった

例え、その可能性が極端に低いとしても、待っていたかった

「―――俺は、ルークじゃない。奴の記憶を持っている……アッシュだ」

自分の研究結果が覆ってほしかったなんて、初めてかもしれない。何が、天才なのだろう。ただ一人の愛しい人を、救うことも出来ないなんて情けなさすぎる

「アッシュ、アッシュなんですの……?」

ナタリアが涙を堪えながら、アッシュに近付いていく。その表情は、どこか複雑そうだが嬉しそうなものでもあった。彼女にしてみれば、昔からずっと恋焦がれていた相手なのだ。もう二度と帰ってこないと思っていた相手が帰ってきた。これ以上嬉しいことなどないだろう

「……あいつは、もう……いないんだな」

ぽつりとガイが呟いた。それに答える者は、誰もいない。ティアも、アニスも、ミュウも。そして、ジェイドも全員が思い知った。ずっと待っていた相手は、帰ってこないということを痛感する

アッシュが帰ってきたことは、いいことだとは思う。決して、否定するわけではない。だが、そう簡単に全てを受け入れる程、人は強くないのだ

ナタリアがアッシュをアルビオールに連れていくのを、他人事のように見ていた。アッシュが来た方向をじっと見つめるが、夜の渓谷に現れる者は他にいない。分かってはいる。そう、分かってはいるのだ。あの先から、朱色の青年が屈託なく笑うように現れることはないということぐらい

ジェイドは無言で、アルビオールへと向かった。それに続くようにガイやティア達も動く気配がしたが、今は何も考えたくはなかった

「俺は……奴のことを何も分かっていなかった。いや、知ろうともしなかったんだ」

各々の住む場所へとアルビオールで送ってもらう中、アッシュが懺悔するように話し始めた。ルークの七年分の記憶でもって、どんな人生でどんな胸中であったか。それを知ったのだろう。それがどんな思いで、苦悩があったのかなんて知らないし、アッシュも話す気はないのか。それともどんなふうに伝えればいいのかが分からないのか。そのどちらでもないのかは知らないが、ジェイドはただ椅子に座って外を眺めていた

ティアやアニス、ナタリアは聞いているようだが、ガイもまたジェイドと同じようにただ空を眺めている。彼が今、どんな思いでいるのかは分からないが、多分ジェイドと似たような感情である気がする。口を開いたら、とんでもない言葉が出てきそうな、自分の感情を抑えられないような気がして話に入っていけないのだ

「……みゅうぅ。ご主人様ぁ〜……」

本当に小さな声だったけど、ミュウは涙声で呟いた。アッシュ達の話し声でかき消されてしまったが、確かにしっかりと聞こえた

あんな風に、一途に思っていれば、彼を亡くさずにすんだだろうか。いや、今更どんな仮説を考えても、もう遅いのだ

(……ルーク……)

何度も奇跡を起こしたルークなら、もう一度奇跡を起こして帰ってくるかもしれない。都合がいい話を信じて待ち続けることしか出来なかった、この二年。レプリカの研究をこれだけしてきて、一体何が出来たのだろう

あの別れる時、重くなるかもしれないとこの想いを伝えようとはしなかった。彼を困らせたくはなかった。でも、伝えるべきだっただろうか。自分に向けられる想いを知っておきながら、彼には無限の可能性があると言い訳をして見知らぬフリをしてきた。本当は、喉から手が出る程欲しかったくせに。あの子供を、この胸に閉じ込めておきたかったくせに。大人であることを言い訳にしたのだ

(好きです、ルーク……これからも、ずっと……)

何もかもが遅いけれども、この想いだけは許してほしい

そっと目を閉じるジェイドの耳に、彼らの話が現在のものになる。いなくなってから二年間、世界で何があったのか。もう懺悔の時間は終わりらしいが、特に聞きたい話ではなかったから別に構わない

「預言を復活させようとする組織が、今世界各地で暴動を起こしているわ。彼らは自分達のことを、レジスタンスと名乗っているの。預言を廃止したことで、不安がっている民衆は未だに多いわ。だから、続々と人数が増えているの」

預言だけではない。プラネットストームを止めたことで、新しい第七音素を作らなくなった。素養がない者は、少しずつ使えなくなっている。新しいエネルギーを探してはいるが、まだ見つかっていない。それもまた、国民の不安を煽る一方だろう

ティアだけでなく、アニスやナタリアも現状を語っていく。その間にも、もうグランコクマへと着々と近付いていた

(今のこの世界を見たら、ルークはどう思うのでしょうか……)

そんなことを、ふと考えた

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