当日までに何とかお返しを用意したい。だが、買うにしては街に行く暇がない。だから、鬼畜眼鏡の息がかかっていない人に頼むしかなかった

「え、私にクッキーの作り方を?」
「……お、おう」

キョトンとしているのは、シェリアだ。本当はアニスやブタ執事に頼む方が早いが、それだとあのジェイドの息がかかっている。あの鬼畜眼鏡に逆らえる度胸が、あの二人にあるとは思えない。だから、頼んでも特に被害がいかないだろう人物に頼むしか方法は残されていなかった

「ルークがいいなら、私は構わないわよ?ふふっ、ユーリの為に手作りをプレゼントしたいのね?」
「な……っ!?」

艦内公認なのは知っているが、こうも直球に言われるとルークはバカ正直に顔に出てしまう。違うと否定しても、シェリアは楽しそうに笑っている

先月のバレンタインに貰ったユーリのチョコは、買ったものではなく手作りだったと後から聞いた。自分は買ったものだから、何だか申し訳なく思ったのだ。自分が料理下手なのは知っている。だから、誰かに教わるしかない

「じゃ、早速始めましょうか。簡単に出来るクッキーなら、お菓子を作ったことなくても大丈夫よ。私に任せて!」
「あ、あぁ。悪いな、シェリア」

こうして二人だけで話をすると、ルークは素直じゃないだけで、本当はとてもいい人なのだとよく分かると思ったシェリアは人気がなくなった夜の食堂で、お菓子作りをスタートしたのだった。不器用なルークに悪戦苦闘しながらも、シェリアは放っておけない弟が出来たようだと思ったのだった

そして、当日。何とか出来たクッキーが入った袋を持って、部屋から出ようとした。すると、ドアの前にいつもの男連中が待ち構えていた

「おや、ルーク。どこかにお出かけですか?」

ニッコリと笑ったジェイドだが、目が全く笑っていない。他の連中も、何やら殺気立っている

「それなら私も同行してよろしいでしょうか?クエスト、なんですよね?まさか王族一人でお出かけではないでしょうし?」

明らかに、バレている。ユーリと二人で出かけようとしていることが。どこからモレたのだろうか。絶対に話していないし、あのロイドやクレスにも喋っていないのだ。ユーリからバレたら後々面倒だからと二人だけの秘密にしていた。だからユーリもフレンにだって話していないはず

「い、いや……あの……」
「あぁ、こちらにいらっしゃいましたか。ルーク様、少々よろしいでしょうか?」

困り果てていたルークの元に、救世主とでもいえるフレンが現れた。ジェイドやレイヴンが怪しげにフレンを見つめている。あのジェイドの異様な気配にも、フレンは爽やかな笑顔でルークに近付いてくる。さすがはあのユーリの親友とでも言うのか。いい度胸である

「フレン?」
「おはようございます、ルーク様。エステリーゼ様とクエストを行く約束をしていたでしょう?僕もご同行させていただきます。準備はよろしいでしょうか?」
「は?お、おい……?」

そんな約束した覚えがない。大体、今日はユーリと二人だけの約束なのに。すると、フレンはルークにしか見えないようにメモを見せてきた。それはユーリの字で、こう書かれていた

【フレンとエステルに協力頼んだ】

ニッコリと微笑むフレンの表情で、ユーリがこの場を予想してフレンを寄越してくれたのだと分かった。いくら鈍感なルークでも、ユーリがこの場にいるとまた前回のように追いかけっこが始まって、デートどころではなくなってしまうからということぐらい、分かる

「あ、あぁ、そうだった。忘れてた。行くぞ、フレン」
「はい。それでは、失礼します」

何でも顔に出やすいルークは、なるべくジェイドから目を逸らして歩き出した。演技なんか出来るわけもないルークとフレンを男連中は怪しんで見ている。後ろからゾロゾロと付いてきた連中に、諦める様子はない

「その……悪い、巻き込んで」

後ろには聞こえないように、隣にいるフレンに話しかけるルーク。フレンは素直に謝罪するルークに少し驚いていたが、いいえといつもの笑顔にすぐ戻った

「ルーク様が謝ることではありません。話はユーリから聞いていますし、エステリーゼ様も喜んで協力すると仰っていました。それに……」
「?」
「僕は、ユーリがルーク様をどれだけ想っているか知っています。そして、ルーク様がユーリをどれだけ想っているかも、ちゃんと分かっていますから」

曇りがない笑顔でそんなことを言われたら、ルークはボンッと音を立てて顔を真っ赤にすることは当然である。恥ずかしげもなく、そんなセリフを言わないでほしい

「な、何かルー君が可愛い顔してんだけど!?」
「あの金髪騎士、ルーク様に何言ったんだ!?」

後ろにいるレイヴンやゼロスから羨ましいとか、そんな顔は自分だけに見せろとか、そんな声が聞こえてきた。が、恥ずかしくて堪らないルークは、さっさと行くぞと足を速めるのだった


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