「あのよ、今すぐ取って食うわけじゃねーんだから、んなに緊張しなくていいって」

無理に決まってんだろ、バカじゃねーか

なんて、本人に向かって言えるわけもなく、ルークは目の前にいる涼しげな顔をしているユーリを睨んだ。だが、睨んだところで、相手は子猫が警戒しているのをほのぼのと見ている心境なんだろうけども

ここは、とある街の喫茶店。見目がいい男二人だけの食事に、周りから注目を集めている。先程からナンパを何度も受け、何度断ったことか分からない。ナンパは女性だけでなく、男もいる。男の方は、悲しいかなルークが圧倒的に多かった。何でなんだ、と少し落ち込む。ただでさえ、バンエルティア号にいるギルドの男メンバーから言い寄られているというのに。ルークは男にモテるフェロモンでも放っているのかと真剣に悩んだ

何故、こんなところに二人きりでいるかというと、それは三日前にまで遡る

バレンタインデーにチョコを渡しあって、キスをしたユーリとルーク。だが、それから特に何かが変わったわけではない。相変わらずルークは男連中に追い掛け回される日々が続いている

まぁ、何も変わっていないわけではない

「つーか毎日毎日、よく続くなあいつらも」

彼らから逃げ回っていると、必ずユーリが人気のない場所へ強引に連れて去ってくれる。この時だけは、二人だけの時間だ

「し、知らねーよ。オレだって、好きで追いかけられてるわけじゃねーし」
「そりゃそーだ」

他に誰かがいる時は、ここまで緊張したりしないのに。ユーリと二人きりのこの時間が、ルークは少し苦手だ。いや、苦手という表現は少し違う。心臓がドキドキとうるさいくらい鳴っている。人前では昔みたいに口喧嘩が出来るのに、何故か誰もいないといつも通りにならない

ユーリから目を合わせないように違う方向を見ていると、隣からブフッと吹き出す声が聞こえた。恐る恐る隣を見ると、ユーリが肩を震わせて笑っているのが分かる

「な、何笑って……っ!?」
「ククク、いや、悪い。お前、やっぱ可愛いわ。耳まで真っ赤にして、オレのこと意識してんの?」

いやー愛されてんなオレ、と意地悪い表情をしているユーリが物凄く憎らしい。どうせ、こんなあたふたしているのも、意識してるのも、ドキドキしてどうしていいか分からなくてパニックっているのも、自分だけなのだ。ユーリはいつだって、飄々としているのだから

ムスッとしているルークの左手を、ユーリは自分の心臓部分に置く。突然のことにポカンとユーリを見ていると、分かるだろと彼は言う。その瞬間、ユーリの鼓動がバクバクと早く動いているのに気付いた

「……緊張してんのは、お前だけじゃないってこと。オレ、顔に出ないタチなんでね。それに、恋人と一緒にいて意識しないとか、有り得ないだろ」

だからルークが意識してくれるのは嬉しい、とユーリは笑う。いつもの意地悪い表情じゃなく、最近ルークに見せてくれるようになった優しい笑顔。それが、凄く嬉しい

「し、してねーよ、意識なんか!!」

はいはい、とユーリは全く本気に取っていない。嘘なのが、バレバレらしい。そりゃそうだ。耳まで真っ赤にして、顔全体を朱色に染めて、自分の鼓動もユーリには筒抜けで。こんな状況では、認めているようなものである

(恋人……って、思ってくれてんだ)

今更かよ、とユーリなら呆れるかもしれないが、ルークにしたら重要なことである。顔に出ないタチのユーリだから、本当はどう思っているのか不安だったのだ。さっさと聞けばいいのかもしれないが、何せルークはそんな素直に聞けるような性格をしていない

「ルーク」
「?」
「三日後、空けとけよ」

何かあったかとキョトンとしていると、ユーリが明後日は何日だと逆に聞いてくる。今日は三月十二日だから、明後日は勿論三月十四日。そこでやっと、あぁと思い立った

「ホワイトデー……」
「そういうこと。だから、二人で出かけようぜ。アンジュにはオレから上手く言っとくからよ」

何か、それってまるでデートみたいだな、なんて。自分はどこまで乙女思考なのだ。似合わな過ぎて、自分で落ち込む。すると、まるで悟ったみたいにユーリがルークの頭をグリグリと撫でる

「ちょっ、何しやがる!?」
「初デートなんだから、楽しみにしとけよ。オレもしとくから」

かあああ、と顔が赤くなる。どうしてこの男は、そんなセリフと堂々と言えるのだろう。ルークには逆立ちしたって無理である

「せ、精々期待しといてやるよ!べ、別に仕方なくなんだからな!」
「おー、了解。じゃ、約束な」

二人でどこかに出かけるなど、今までしたことがない。他の連中に邪魔されて、クエストに行くのも二人きりでは行かせてもらえなかった。ティアやアニスだったら協力してくれたかもしれないが、あの鬼畜眼鏡がそうは許さなかった。エステルやジュディスも応援してくれているのだが、レイヴンやゼロスにエステルがどうも丸め込まれているらしい。ジュディスは明らかに楽しんでいると、ユーリがいつだったかぼやいていた

今のところ、確実な味方はルークの親友であるロイドやクレス。ユーリの(本人は腐れ縁と言っているが)親友のフレンだけであろう。まぁ、他にも腐女子の意味ではいるけれど


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