俺とスピネルは、森の中の小道をショートカットしながらタマムシに向かっていた。今乗ってるバイクは山道でも余裕なオフロード仕様だ。お古なんかじゃなくて、貯金積んで買った俺の愛車!スピネルにはしっかり背中に掴まるように言い聞かせて、タンデムで走っている。元々慣れた道だし、飛び出してくる野生ポケモンもいなかったから、予想よりも早く着いた。

タマムシデパートの駐輪場でバイクを停めて、スピネルと建物の中に入る。さて、何から買ったもんかな?とりあえず案内板に目を通してから、最上階から順に見て歩くことにした。初めて見るものばかりのスピネルは、ずっと興奮していていて落ち着きがなかった。でも楽しそうだったし、いつの間にかはぐれるなんてことも無かったから安心してた。俺は足元ではしゃぐスピネルを見守りながら、順調に買い出しを進めていった。



それから約2時間後。俺たちは買い物を終えて、近くの公園で一休みしていた。木陰のベンチを陣取り、冷たいジュースを飲んでいる。小さめのボトルはスピネルのモモンジュース、俺の手の中にあるのはサイコソーダだ。まだ小さい両手で抱え込むようにして飲むスピネルの姿は、素直に可愛いと思った。慌てんなよって言う意味も込めて、その頭をゆっくり撫でてやる。

「んじゃ、それ飲み終わったら師匠んとこにだべりに行くか!ちゃんと挨拶もしとかなきゃだしなー」

空になった缶をいじりながら、俺はスピネルに話しかけた。背中の四次元バッグに入れた西瓜は無事だろうけど、やっぱ早いとこ冷やして食べてもらいたいし。俺の話がわかったのか、スピネルは大きく頷いた。やっと空になったボトルを手に、カゲカゲと嬉しそうに鳴いている。もう一度スピネルに笑いかけて、俺はベンチから立ち上がる。身の回りを整えてから、再びバイクに跨がりエンジンを吹かし始めた。


師匠の教えている道場は、トキワの外れの広い土地にある。近くに川も流れてて、夏も結構涼しいんだ。浅瀬の辺りでは、小さい子とか練習帰りの門下生が遊んだり涼んだりしてるのがいつもの光景だった。ずっと川沿いにバイクを走らせていくと、左手側に道場が見えてきた。何気なく水面を眺めると、不思議な違和感を覚えた。え、なんか青い物体が浮かんでんだけど…何あれポケモン!?

川の真ん中辺りに引っ掛かって浮き沈みしているのは、青いギャラドスだった。遠目で見ても明らかに弱っている。

「ちょ、スピネルお前荷物見とけ!」

焦った俺は慌ててバイクを停めて、川のなかにザブザブ入っていった。近くで見る限り、ギャラドスに大きな傷はない。擦り傷だらけで呼吸が乱れてるとこから、川の上流で毒でも食らって流されて来たんだろう。こりゃ早く回復してやんないとヤバいかもな。

川底で足を踏ん張って、岩にしがみ付いていたギャラドスを腕に引き寄せる。どうにか流されるのは防いでたけど、抵抗する力は残ってないみたいだ。大人しくされるがままになっている。なるべく負担をかけないように、ギャラドスを抱えて岸辺に戻る。浅瀬に近づいた辺りで、バイクの上で大人しくしてたスピネルに向かって叫んだ。

「うぉいスピネル!俺のバッグからボールいっこ持ってこい!外側のポッケに入ってっから!」

水中の浮力があった時とは違って、この辺からはギャラドスの身体を無傷じゃ運べない。俺は半ば長い尾を引き摺るようにして、やっとスピネルの待つ岸辺に上がった。
ギャラドスの容態は、水のなかに居たときより更に悪くなってるみたいだ。目を閉じたままあまり動かない。

「ちょっと狭いかもだけど、我慢しててくれよ。回復が終わったら、すぐ逃がしてやっから。な?」

スピネルが握っていたボールを受け取り、ギャラドスに軽く押し当てた。三回の揺れはあっさり捕獲完了を告げ、こいつがだいぶ弱っていることを改めて思い知る。俺はギャラドスのボールと、スピネルを戻したボールをベルトに付ける。軽くTシャツを絞って着直した後、急いで道場に飛び込んでいった。


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