ピピピピ、ピピピピ…

無機質なアラームが鳴り響いている。俺は布団の中から手を伸ばして、目覚まし時計のスイッチを切った。俺はこれでも寝覚めは良い方だ。毎日の配達のせいで、必然的に早起きが身に付いたとも言える。時計をみると、朝5時を少し回ったところだった。

「んんーっ。今日も1日頑張りますかー。って、ちょい待ち!スピネル何やってんの!?」

思い切り伸びをしてからふと目線を下げると、足元でスピネルが蹲っているのが見えた。今コイツが抱えている青色には、心当たりがあった。

「ちょっとマジでやめてスピネル!これは俺の大事なもんなんだからっ」


スピネルはペンギンのぬいぐるみに噛み付いて遊んでいた。俺は慌ててぬいぐるみを取り上げて、安全な場所を探し始める。スピネルが不機嫌になったけどまぁ仕方ない。とりあえず、部屋で一番高い洋服箪笥の上に避難させておくことにした。


一息付いてスピネルに視線を戻すと、案の定スピネルはぶんむくれていた。尻尾を床にベシベシ叩き付けながら、凄い勢いで睨んでくる。見付けたオモチャをいきなり取り上げられたんだ、そうなるわな。でもこればっかりは、俺も譲れない。

「ごめんなー、スピネル。けどあれは、俺の大事な人と買ったぬいぐるみなんだよ。だからこれからは、あれには悪戯しないでくれな。OK?」

まだちょっと不機嫌そうだが、スピネルは小さく頷いた。ほっとした俺は、膝をついたまま頭を撫でてやる。そうしている間に、ちょっとしたアイディアが閃いた。



「さっきのお詫びっつったらアレだけど。良かったら、スピネルも俺と配達行ってみるか?せっかく朝早くに起きたんだし。」

『カーゲ?・・・カゲカゲー!』

スピネルは少し迷ってたけど、好奇心の方が強かったみたいだ。何処かウキウキした様子で、俺の足元で跳び跳ね始めた。

「うし、んじゃー準備すっからちょっと待っとけ。」

俺はスピネルの機嫌が直ったことに安心しながら、自分の身支度を整え始めた。
洗面所に行ってから、いつも仕事で使っているツナギに着替える。[涼宮農園]のロゴ入りだから、宣伝効果もバッチリだ。最後に、いつも着けているイルカのシルバーペンダントを首から掛ければ準備完了。大人しくベッドで待っていたスピネルを呼んで、下に続く階段を踏み出した。



「親父、お袋おはよー。今日の配達はトキワ方面だっけ?」

「んだ。件数は多いけんど、ちんたら油売ってんじゃねーぞ」

「分かってるっつーの。あと、今日はスピネルも連れてくから。バイクのカゴん中でも大丈夫・・・かな?」

「サイズ的には、問題ないんとちゃう?あとは、飛沫が安全運転すれば行けるんやないの。」

俺は2人と話しながら、梱包済みの荷物をバイクに積んで固定していく。配達に使ってるバイクは、親父からのお下がりだ。だから型式も古くて、最早スクーターに近いかもしんない。荷台はしっかりしているけど、2ケツするのは構造的に無理。

だからスピネルは、ハンドル前にあるカゴに入れてみることにした。実際やってみると、イイ感じに収まったようだ。…確かにこりゃあ、リザードになったらもう入るサイズじゃ無くなるわな。1人で納得しながら、最後の確認も終わらせた。

「うっし、んじゃ行ってくっから!」

エンジンを吹かしながら声を掛けると、2人とも作業の手を止めて送り出してくれた。どことなくワクワクしているスピネルを乗せて、俺は朝日が射し込む道を走り出した。


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