がたがた、ピシピシとタマゴの破片が飛び散っていく。俺は固唾を飲んでその様子を見守っていた。自分の心臓の音がうるさくて。握りしめた指にも、思わず力が入る。次の瞬間、殻に開いた大きな穴から、鋭い爪のある右腕が飛び出した。それが振り回されるのと同時に、全ての欠片が取り去られた。

『カーゲ、カゲー!!』

そこに現れたのは、小さなヒトカゲだった。いきなり開けた視界にきょとんとしたような表情をしている。俺たちの顔を順に見回してから、ゆらゆらと尻尾を動かし始めた。

「うわぁ、コイツの色って親父のカイリューと同じだよな?目の色はどっちにも似てないけど。それでヒトカゲってことは・・・もしかしてカイリューとリザードンの合いの子!?」

戸惑いながらも、膝をついてヒトカゲの手をそっと握る。体の色は柔らかな黄土色。瞳と炎の色は、澄んだ紅色をしていた。親父も納得したように、モンスターボールを弄っている。

「んだかもなぁ。どら、親子の対面といってみっかい。」

親父がボールを放ると、逞しい体躯のカイリューが現れた。


さっきも言ったけれど、俺んちの自慢はどの部屋も屋根が高いとこ。ある程度タッパのあるポケモンでも、余裕でボールから出してやれるんだ。出てきたカイリュ―は、喉をならして親父に擦り寄っていた。

「ほら、カイリュー。コイツ元気に生まれたんだぜー?良かったなっ!」
ヒトカゲを抱き上げて、カイリューの鼻先に近付けてやる。ヒトカゲが手を伸ばして触れてくるのを、嬉しそうに受け入れていた。

「やっぱお父さんのカイリューと、お母さんのリザードンの子だね。この子は!お兄ちゃん、もう名前とか決めたの?」

二匹の傍に寄り添うリザードンを撫でながら、雫が話し掛けてきた。やっぱりこいつも幸せそうだ。


「あぁ。コイツの名前はスピネルって付ける。瞳と炎の紅色が、ルビースピネルっつう鉱石にそっくりなんだ。」

「スピネルね、えぇ名前やないの。・・・でもな飛沫。一緒に旅するからには、しっかり責任持たんとあかんよ。」

いつも微笑みを絶やさないお袋が、珍しく厳しい表情で俺に言った。神妙な面持ちで頷いてから、抱いていたスピネルを下ろす。もう一度膝を折って、紅の瞳を覗き込んだ。

「俺は飛沫。今日からお前の名前はスピネルだ。・・・これはスピネルさえ良ければなんだが、一緒にジョウトを旅してみないか?」



言っている間じゅう、スピネルは目を逸らさなかった。その後すぐに、瞳に強い光が宿る。尻尾の火も、より輝きを増した気がする。

「なら交渉成立、ってことでOKだな?」

スピネルを抱き上げつつ尋ねると、元気な鳴き声が帰ってきた。その様子に、俺は正直ほっとしていた。



「俺はスピネルと一緒に旅がしたい。だからカイリュー、お前の息子を俺に預からせてくれないか。俺も一緒に一回りも二回りもデカくなって帰ってくるから。」


最後に、スピネルの父親であるカイリューと向き合った。濃灰色の瞳が、俺たちを写して細められる。次の瞬間、俺とスピネルはカイリューに荒っぽく頭を撫でられていた。言葉は伝わらなくとも、『思いっきり楽しんでこい』と言ってくれているようでとても嬉しかった。


その後細々とした用事を片付けたあと、俺はスピネルを連れて自室に戻った。ベッドで跳び跳ねて遊ぶスピネルに苦笑しながら、寝る準備を整えていく。今日は何だかんだで疲れたみたいだ。ベッドに潜り込むと、すぐに睡魔が襲ってくる。それは生まれてすぐのスピネルも同じらしい。俺の足元に場所を陣取ると、丸くなって寝息を立て始めた。


いい夢見ろよと小さく呟き、俺はスタンドの灯りを消した。




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