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「いやー、今日もお疲れっした!俺先に風呂入るわー」
今の時期の我が家は、ひたすら野菜の収穫と梱包に追われている。そんなこんなで、家に帰るのは陽が落ちてから更に後という日もザラだ。土と汗まみれな俺は、タマゴをソファに置いてから風呂場へと向かった。
「そういやお袋。タマゴから孵ったばっかのポケモンて、一体なに食わせればイイんだ!?」
風呂上がりの俺は、タオルを首に掛けたまま台所のお袋に尋ねた。アイツが孵った後のことも聞いとかねぇと。
「結構何でも食べるさかい、心配あらへん。ポケモンフーズや木の実でもえぇし、うちらと同じ食事でも大丈夫やから。なぁ、リザードン?」
お袋は隣で微睡んでいたリザードンをそっと撫でてやった。こいつはボールの中にいるよりも、お袋の側に居るとか散歩に出掛けるのが好きみたいだ。うちは昔ながらの農家造り。広い土間や居間でなら、家の中でも原型でくつろげたりするのが自慢だ。細く目を開けたリザードンは、小さく喉をならしながら擦り寄っていた。
「ふーん、なら特に身構える必要もねぇか。俺もメシ運ぶの手伝うよ。」
話ついでに、完成した夕食を2人で運んでいく。リザードンはもう食べ終わったみたいだから、タマゴを見ていて貰うことにした。全員が席についてから、俺たちも夕食を食べ始めた。
横目で様子をうかがうと、リザードンはタマゴを暖めるように丸くなっていた。やっぱ産みの親なだけあるよなぁと感心しながらおかずを平らげる。自分の食器を片付けてから、彼女の隣に腰を下ろした。「なぁリザードン。俺、コイツが生まれたら一緒に旅に出たいんだ。寂しくなるかも知れないけど、たまにはちゃんと顔見せに来るからさ。」
夕陽色の表皮にそっと手のひらを添えてみる。小さくあくびをしたリザードンは、了解の証か俺の手をゆっくり舐めてくれた。
「んだ飛沫。トージョウの滝を通ってくなら、最初の町はワカバだべ?・・・俺のダチが喫茶店やってんだわ。もし寄ったら、宜しく言っといてくれや。」
「へーい。つか親父、ちっと飲み過ぎじゃね?明日の仕事に響くんでねーの。」
「そだよお父さん。ほら、いまワサビ多めのお茶漬け作ったげるから。今日はお開きにしとこ?」
いいタイミングで雫が声を掛け、親父は新しく酒を注ぐのを諦めたようだ。今は大人しくお茶漬けを食べている。
俺は苦笑いしつつも、家族の様子を眺めていた。
ふと気付くと、リザードン緑の目がこちらを見ていた。頭を軽く撫でてから、タマゴを腕に抱かせてもらう。心持ち、朝より動きが出てきているようだ。タマゴの中から、カタカタと小さな音も聞こえてきた。
「あれまぁ、もうすぐ生まれそうやねぇ。ほれ飛沫、早くこれ敷きなはれ。」
お袋がバスタオルやら洗面器やらを持って俺に近付いてきた。だんだんと俺も緊張してきて、言われるままに準備を整えていく。畳んで重ねたバスタオルの上にタマゴを置いて、近くにお湯とタオルを準備すれば完了だ。
「ちょ、お兄ちゃん表情カタいよー?こう言うときこそ、笑顔で迎えてあげなくちゃ!」
雫に背中を強く叩かれた。地味に痛い。でもま、それもそうだよな。
「早く出ておいで。お前に会えるのを、みんな楽しみに待ってるかんな。」
俺は半ば祈るように語り掛けていた。頑張れの想いを込めてタマゴを撫でていると、不思議と笑みが浮かんでくる。他の皆も同じ気持ちで、あたたかい視線を送っているみたいだ。
しばらくすると、タマゴがガタガタと大きく揺れ、幾つもの亀裂が入り始めた。
…いよいよ、俺の相棒が生まれる。
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