「おはようございまーす。涼宮農園の者ですがー!」

「あらま、飛沫くんおはよ。いつも精が出るわねぇ、ありがとうな。」

「いえいえ。此方こそ、いつもご贔屓にどうもっ。んで、今週からは夏野菜セットになるんすよ。特にこのトマトは俺のオススメだから!楽しみにしててー」

俺の名前は涼宮飛沫。最後の小包を届けたあと、家に帰るべくバイクを走らせている。

俺の家では、十数種類の野菜を作って出荷している。マサラの涼宮農園と言えば、ちっとは名の知れた農家で通ってるみたいだ。最近じゃ野菜の宅配サービスも手掛けるようになった。

俺がバイクに乗るようになってから、こんなに親父にこきつかわれるとは思ってなかった。
特に最初のころは、目の回るような忙しさで、仕事を投げ出したくなる時もあったし。

…それでも、みんなうちで作る野菜を気に入ってくれてるのが分かったから、今じゃ率先して手伝っている。

宅配手伝いを3年もやってるせいか、常連さんや新規のお客さんともかなり仲良くなれたと思う。さっきのお客さんにも、缶ジュースを1本いただいた。


家についたのは朝8時半。収穫の時期は特に朝が早い我が家では、いつもこの時間帯に朝食を取っている。親父とお袋、妹は既に食卓に着いて談笑していた。

「あ、お兄ちゃんお帰りー。ちゃっちゃと手洗いしてきてね!」

「へーい。つかお前は先生か何かかよ。」

帰宅早々雫に声をかけられ、苦笑しながらも洗面台へと向かう。11歳の妹は、年の割にしっかりしている方だと思う。そのまま席に着き、手を合わせてから朝食を食べ始める。俺が2杯目のお代わりをするころ、親父に名前を呼ばれて顔を上げた。

「そういや飛沫。おめぇ明後日が19歳の誕生日だべ?そろそろ旅に出てもいいんでねぇの。」

「んぐ。…そりゃぁ俺だって旅はしてみたいけどさ。そしたら家の仕事が回んなくなんだろ。」

親父の唐突な言葉に驚いて、反応が一拍遅れた。親父とお袋を見やると、それぞれの表情で笑っているのが分かった。


確かにここいらでは、20歳の誕生日までにポケモンと旅に出る習慣がある。スタートする日は自由に決められるという但し書きに安心していた俺は、言われてやっと思い出した。

「その顔はすっかり忘れてたんでしょ、飛沫にぃ。心配せんでも、あたしはお兄ちゃんが帰るまで旅にはでないからさ。家の仕事もうまくやって見せるって!」

妹にまで見透かされていたのが癪だったので、雫の髪をぐしゃぐしゃと掻き回してやった。本人はあまり嫌がってないようだったが。

「そか。じゃあ近々出発しよっかなぁ。場所はジョウト辺りがいいかなー」

「波乗りと滝登りが使えれば、トージョウのたきからすぐに行けんだろ。明日辺り、手持ち増やしてから出発するこったな。」



「あとな飛沫。あんたが旅に出るんなら、1つお願いがあんねん。」

お袋がテーブルの下からなにかを取り出した。・・・ポケモンのタマゴだ。日向にあるからよくわからないが、時々ほんのりと光っているような気がする。

「このタマゴな、いつの間にかうちのリザードンが持ってたんよ。タマゴが孵ったら、飛沫と一緒に旅させてやって欲しいんや。」

「そっか、分かった。てことは、生まれるのはヒトカゲだよな?」

「そりゃあ、生まれてみぃひんことにはわかんねぇなぁ。あの子は散歩好きだったさかいに。たぶん、今日の夜か明日の朝までには生まれると思うで。」

お袋からタマゴを受け取ると、腕一杯に命の重みと温かさを感じた。


まだ今日の仕事は残っていたから、悩んだ末に愛用の斜め掛けバックにタマゴとタオルを詰めて背負っていくことにした。

「無事に生まれてこいよ。一緒に楽しい旅しようぜ!」

俺は背中にタマゴの存在を感じつつ、どこかそわそわした気分で作業場に向かった。


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