7
俺は結局5限目も6限目も居眠りなんか出来やしなかった。
寝る気満々で机に突っ伏していたのに、いざ寝そうになると虹が先生に当てられて板書したりするもんだから、彼をずっと見て過ごしてしまった。

「畑中くん気分悪い…?」

HRが終わっても動かない俺の席に虹が来て心配そうに問う。
それに笑って席を立つと、尚も心配そうに黒髪で隠れた瞳は揺れていた。
宥めるように俺の肩くらいの位置にある頭を撫でる。

「大丈夫ー、寝ぼけてたかな?」

おどけて見せると安心したのかふわりと微笑んだ。
その顔にまた胸がきゅっと鳴って、たまらずに抱き締めた。
驚いて固まる虹の髪にグリグリと頬を押し付ける。

「畑中、くん……っ」
「虹可愛いー」
「えと…その……」

虹の髪は癖がなくて何だか柔らかい。
指で掬ってみると、すごく細かった。
ひとしきりその感触を堪能して解放すると、虹はまだ呆然と固まっている。

「ごめんね、可愛くてつい」
「僕……男だよ…」
「可愛いって思うのに男とか女とか関係あるの?」
「分かんない…」
「俺が良いなら良くない?」

俺は本能で生きてきたから、よく分からない。
虹の笑顔や仕草が可愛いと思うし、虹の純粋そうな真っ黒い瞳が好きだと思う。
さっきだって、笑顔が可愛いと思ったから抱き締めたくなった。
ただ、それだけ。

固まったまま何も言わない虹に不安になって俯いて見えない顔を覗きこんだ。

「嫌だったなら、もうしないよ?」

そう言うと勢いよく顔を上げて激しく首を横に振る。
俺は乱れた前髪をそっと掻き分けて、初めて虹の顔をまともに見た。

真っ白い肌に大きな目、真っ黒な瞳はやっぱり純粋そうにキラキラ輝いてる。
心がキレイな人は瞳もキレイだとばぁちゃんが言っていたけれど、虹の瞳はまさしくそれだと思う。

「嫌じゃ、ないよ」

虹がはっきりとそう言った。
それなのにまた俯いてブレザーの裾をキュッと両手で掴む。

「どうして、僕なのかな、って……」
「どうしてって?」
「畑中くんは、友達…いっぱいいるのに……」
「うん」
「どうして、僕なんかと…仲良くなりたいなんて……」

虹の言葉に首を傾げるしかなかった。
仲良くなりたいって気持ちに、僕なんかとか関係ない。
俺に向けてしてくれた(と思う)自己紹介だとか、昨日今日で見せた笑顔だとか、いちいち俺の庇護欲を掻き立ててくれるってのに。

「俺と仲良くしたくない?」
「そんな事、ないよ…嬉しい……」

俯いたまま小さな声で言う虹の形の良い耳がまたピンクに染まった。

何だろうこの生き物。
いちいち反応が可愛い。

嬉しいと言ってくれるあたり俺が怖いとか嫌いとか、ましてやキモいとかではないらしいとわかって安心した。

「俺、仲良くなりたい。本当だよ?」

虹の手を握ってそう言えば、彼が俯いたままだった顔を上げてはにかむように笑った。

また、胸がきゅんって鳴った。






7/22
<< >>

top

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -