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屋上で昼食をとった後、職員室で諸岡から花の苗や肥料、道具を渡された。
植える場所は中庭、校門、校舎脇。
どうやらけっこうあるらしい。

「土混ぜたよー」
「ぁ…じゃあ、こっち……」

遠山の指示通り土を混ぜて、彼が作った穴に半分くらいまでそれを入れて行く。
その後遠山が苗を入れて、その上からまた土を置いて……終わった頃には夕方になっていた。

「終わったなー、何植えたかわかんないけど」
「えっ?」

手の砂を落としながら立ち上がってそう言うと、まだ屈んだままの遠山が驚いた声を上げた。

「わかんない…の…?」
「わかんないよー、興味ないし。遠山くん分かるの?」

問い掛けると遠山は小さく
首を縦に振って、一つずつ指さして教えてくれた。

「これがガザニア、アリッサム、ベゴニア……」

一通り花の名前を教えられたけど、綺麗に咲く頃には忘れそうだ。
それが分かったのか、困ったように笑いながら今度書いておく、と言ってくれた。

今日は校門前の花壇しか出来なかった。
後片付けをして遠山の隣を歩く。
家はどこなのかと聞けば意外と近くて驚いたが、話しもしたかったしちょうどいい。

「遠山くんはさ、話すの苦手?」
「……うん」
「何で?」
「つまんない、から…僕……」
「もったいないねー」

正直にそう言った。

花壇を作っている間、少しばかり話したけれどつまらないなんて事はなかった。
と言っても、俺が話してんのに相槌うってくれてただけなんだけど。
驚いたり、笑ったり、コロコロ変わる表情がもっと話したいと思わせた。

「あ…僕、ここ……」

俺の家まであと数メートルってとこまで近づいて遠山が突然止まった。
どうやらここから曲がるらしい。
ペコリと頭を下げる彼に手を振ると、ぎこちなく振り返してくれた。

「あ、待って遠山くん!」

背中を向けた彼の手首を掴んで引き留める。
戸惑っているのか、固まってしまった。

「下の名前で呼んでいい?」
「え……」
「虹って、呼んでいい?」

本気で仲良くなりたいと思った。
今日一日楽しかったし、彼の側はとても癒された。

黙ったまま俯く彼にダメかと問えば、勢いよく首を横に振って照臭そうに笑った。

今度こそ本当に彼の背中を見送った後、俺も家路についた。

耳が少しだけ熱い気がした。




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