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教室から一人、また一人と人が居なくなる中俺の机の周りには女子が3人集まっている。
朝引っ付いて離れなかったマリちゃんと、あと2人。

財布をポケットにしまって売店に行こうとしたところで呼び止められてしまった。

「透ほんとにやるの?」
「係? やるよー」

俺の隣の奴の机に座って面白そうに聞いてくるカナちゃんに簡単に返事をしたら、似合わないと笑われた。

「今日半日だから遊びたかったのにー」

そう残念そうに言うミキちゃんもどこか面白そうで、ごめんと謝れば笑いながら許してくれる。

「遠山に任せちゃえば?」

不満そうにそう言うマリちゃんは毛先を弄りながら前の奴のイスに座っている。

「俺そーゆうの嫌いなんだよねぇ」
「透変なとこ真面目だよね」
「そうだよー。俺売店行ってくるから、早く帰りなー」

財布を見せつけながら促すと、3人共教室から出て別れた。
売店は北校舎と南校舎のちょうど中間。
1階渡り廊下にある。

部活やってる奴がごった返す中、何とかパンを適当に3つとコーヒー牛乳を買った。

今日は始業式だから半日授業だ。
さっそく係の仕事を始めるとかで、昼食後遠山と俺で職員室に向かう事になってる。
俺が教室から出た時には既にいなかったから、どこか別のところで食べているのかもしれない。

階段を3階まで上がると、スっと風が通り抜けた。
この上は屋上だ。
あまりに気持ちのいい風に誘われるように階段を上がって屋上に出ると、貯水タンクの陰に人影が見えた。

漆黒の髪をサラサラと風に靡かせながら、じっと空を見上げていた。

「遠山くん、何してんの?」

声をかけながら近づくと、身体を揺らしてこちらを見た。
何だか今日は遠山くんに驚かれてばかりの日だなぁとか考えながらその隣に腰をおろして買ってきたパンをひとつ口に頬張った。

「遠山くんご飯食べた?」
「ぅ、ううん…」
「じゃあ一個あげる」

袋に入っていたクリームパンを渡す。
うちの売店のクリームパンは、クリームとろっとろで結構人気がある。
彼は躊躇いがちにそれを受け取ってじっとパンを見つめている。

「飲み物もう一個買えば良かったね、一個しかないや」
「ぁ…大丈夫、ありがと…」
「どーいたしましてー」

もそもそと袋を開けてパクリと噛み付くそれが、何だかいちいち可愛い。
何てーのコレ。
子猫に手から餌食べさせたような感覚?

うん、近いかも。

「遠山くんはさー、嫌じゃないの?」

2つ目のパンに手をつけたところでそう聞いてみると、キョトンとした顔で見つめてくる。

「係、嫌じゃないの? 推薦ってか、遠山くん大人しそうだから押し付けられたんじゃないの?」
「…嫌いじゃ、ないから……」
「そ? ならいいんだけどさ」
「畑中…くん、は?」
「遠山くんと仲良くなりたかったからかなー」

素直にそう言ったんだけど、遠山は目をまん丸くしていた。
口の端についてたクリームを指で掬って自分の口に入れると彼が俯いてしまったけれど、髪から覗いた形のいい耳が真っ赤になっていた。



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