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カチャカチャと陶器の擦れる音がする中、俺はまだ虹の家に居る。
小さなテーブルを挟んだ向かい側で、俺を凝視する虹のお兄さんに居心地の悪さを感じながらただ小さくなっているしか出来なかった。

「虹と同じクラスなん?」
「へ?」

いきなり声を掛けられたから、間抜けな声を出してしまった。
それすらも面白いのか笑っている。
それが虹によく似ていて、不覚にもドキドキしてしまった。

「今年から…同じクラスになりました」
「そっか。虹ってあんまり喋らないだろ?」
「いや…結構、喋ってくれます」

ただそう答えただけの俺に一瞬目を丸くして、彼は嬉しそうに笑う。
それはもう、心底といった様子で。

「そっか……ちゃんと友達、できたんだ」
「虹を悪く言ってんのは、聞いた事ないです」
「“変わってる"って言われてんじゃない?」
「それは…みんな話さないから分からないだけで……」
「うん、そうだね」

俺の言葉を肯定しながら、穏やかな顔で虹を見る彼に言いかけた言葉を飲み込んだ。

“話してみればいい奴だって分かる"

なんて、俺が言うまでもなく知ってるはずだ。
兄弟なんだから。

片付けが終わったらしい虹がエプロンを外しながら戻ってきた。
俺たちを見て不思議そうに首を傾げると、そのまま俺の隣に腰をおろす。

「何の話し……?」

首を傾げて俺を見上げる虹に何でもない、と返す。
お兄さんは笑顔をくすさないままテーブルに肘をついた。
虹はお兄さんを見たあと小さくうなずけるて俺に向き直る。

「えっと…畑中、くん」
「はい?」

何か大事な事を語られるのかと、俺も姿勢を正す。

「これが…僕の双子の兄、です」

小さな声で発せられた言葉に、頭がついて来なかった。
目の前の彼は薄汚れた作業着を着ていて、虹と対象的な明るく傷んだ髪。
しかもその身体からほのかにタバコの匂いも漂ってくる。

「ふた……ご?」

俺の言葉に虹はコクリと頷く。
人って本当に驚いた時は叫びもしないんだ、とか人事のように思った。

「俺、高校行ってないだけでまだ17だよ」

そんな驚く事?
と苦笑いを零した彼に釣られて同じように苦笑いを浮かべると、虹が申し訳なさそうに俯いた。

「陽…今日帰り、遅いからって……」
「会わないからいいやって? 虹って結構面倒くさがりだよねぇ」
「……ごめんね、畑中くん」
「いや、いいんだけどもっ」

上目遣いでの謝罪に大袈裟に否定すれば、虹はほっと息を吐いてふんわりと微笑んだ。
そんな虹を見てお兄さんは一瞬目を見開いた後、何かを悟ったように目を細めて呆れたように笑ったのだった。



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