18
甘い。
何もかも。
柔らかい唇も、鼻をくすぐる匂いも。

腕の中でかたくなった身体を宥めるように虹の頬や唇を啄む。
女の子相手に何度もした事なのに、相手が虹だってだけで身体がこんなにも熱い。

「畑中、く……」
「嫌じゃない…?」
「え……」
「俺にキスされるの、本当に嫌じゃない?」

唇を離して額を合わせて問うと、目をギュッと閉じて首を何度も横に振った。

「嫌じゃ…ない……」
「じゃ…もっとしていい?」
「もっと、して欲しい…」

ギュッと閉じられた瞼を薄く開いてそう言う虹は無意識なんだろうけど、伺うように上目遣いで見てくる。

「そんな顔して…ずるい」
「え…ごめ……っ」

謝ろうとする唇を塞いで舌を差し入れると、身体がびくりと跳ねた。
構わずに逃げる舌を絡めとり味わう。
虹の咥内はお菓子みたいに甘い。

「はぁ……んん…っ」

角度を変えるたびに漏れる声に理性なんか吹っ飛びそうだった。
俺の胸元を掴む両手の力が強くなる。
両手で頬を挟んで唇を離してやると、必死で酸素を取り込み始めた。

「ごめん、苦しかった?」
「ちが…、息、わかんなくて……っ」

息の仕方が分からないなんて、そんな言葉聞いた事ない。
虹の言葉一つでこんなに胸が煩くなるなんて病気じゃないかと思うほど、俺は彼に惚れている。
虹が息を整えたのを確認して真っ赤になった頬に口付けると、虹は両手で自分の顔を覆った。

「え、なになに。どうしちゃったの?」
「…見ないで……」
「何で? 虹の顔、見たいよ」

顔を隠したままの虹にしつこく食い下がってみたけれど、ついに膝を抱えてしまった。
やっぱり嫌だったのかと小さく溜め息を零す。

「ごめん……もうしないから、許して…?」

言いながら虹の髪を撫でると、膝頭に埋められていた顔を僅かに上げてくれた。
咄嗟に髪を撫でていた手を離して笑いかけると、また視線をそらされる。
嫌われたかと思うと、心がざわついて泣きたくなった。

「虹やだ、嫌いになんないで。もうしないから、ね?」

必死で取り縋るのなんてみっともなくてカッコ悪い。
だけどそんな事より虹に嫌われない事の方が重要だ。
ふいに虹が俺を見て唇を開けたがまた閉じた。
虹の言いたい事がある時のクセ。
虹の考えがまとまるまで待っていると、膝を抱えていた手が俺に触れる。

「なに?」
「えっと……」
「うん」

まだ思案している様子の彼に短く返事をして促すと、ようやく口を開いた。

「もう…しない、の……?」

虹の言葉を理解するのに少し時間がかかった。
いや、今だってよく理解出来ないでいる。

「なんて…?」
「もうしないって……」
「ちが、違うよ! 虹が嫌だったのかなー…って」
「嫌じゃないよ…?」
「だって、顔隠しちゃったから…」
「それ、は……」

口ごもる虹をじっと待ってやると、顔を真っ赤にしたまま潤んだ瞳を俺に向けてくれる。
いつだって話す時、俺を見てくれる虹のそれが好きだとか、そんな事を思った。

「恥ずかしかったんだもん……」

たった一言。
何でもないたった一言で俺をこんなにドキドキさせてくれちゃうなんて、きっと虹は知らない。
俺だって、知らなかったんだから。







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