17
話があるのだと言われるままに虹の家へと案内された。
外観はお世辞にも綺麗とはいい難いアパートだったが、部屋の中は無駄な物が1つもないスッキリとしたものだった。

「狭いけど…」

遠慮がちに置かれた座布団に腰をおろすと虹が冷蔵庫から飲み物を出し始めた。
俺は自分の膝の上で握り拳を作ったまま床を見つめていた。
カランと小気味のいい音を立ててテーブルに置かれたグラスから手を離しながら、虹が困ったように笑う。

「ごめんね…麦茶しかなくて……」

それに首を横に振る事で答えてから、そのグラスを煽った。
緊張して乾いていた喉を冷たい麦茶が通っていく。
喉が潤ったところでグラスを置いて虹に向き直った。

「話って、なに?」

虹は少しだけ瞳を大きくさせて俯いた。
俺の握り締めた拳はじんわりと汗ばんで、心臓の音が煩いくらいに鳴っている。

虹が何度か口を開いては閉じ、悩むような素振りを見せるたびに心臓が一際大きく鳴った。

言葉を待ってるだけでこんなになるなら、いっそキモイだとか迷惑だとかハッキリ言われた方がマシだ。

「畑中くん…は……」

虹が顔を上げる。
キョロキョロと瞳をさ迷わせて、言葉を選ぶようにまた何度か唇を動かしてから真っ直ぐ俺を見た。

「僕なんかに…何であんな事、したの?」

虹の言う”あんな事”がキスの事だと理解した瞬間に俺の顔は一気に熱を持った。
虹が俺を真っ直ぐ見つめたまま反らさないものだから、今度は俺の方が視線をさ迷わせる。
意を決して虹を見つめると、虹の瞳は潤んで揺れていた。

「好き、だから」
「僕を……?」
「虹の事知って、話して…好きになっちゃったから」

虹と出会ってまだ一週間程度。
なのにこんなに惹かれてしまった。
こんなの、知らない。

「キス、してごめん。けど、本当に好きなんだ」

俺が畳み掛けるように言うと、虹がテーブルに置かれたグラスを口にあてた。
心なしか虹の頬が染まっているように見えるのは、俺の願望か。

虹に続くように残った麦茶を飲み干して、グラスの中でカラカラと音を立てる氷を見つめた。

「虹と話したのなんて、最近なのに…変だよな、好きなんて。男に言われたって気持ち悪いよな……ごめん」

何も言わないままの虹に取り繕うようにそう言って、無理矢理笑顔を作った。
虹はまた俺を見て、首を横に振る。

「僕…畑中くんの事、ずっと知ってたよ」
「え?」
「畑中くんの周りには、人がたくさんいて…いつも笑ってて、いろんな女の子とデートしてるのも、知ってた……」

虹が切なげに目を伏せながら、言葉を並べていく。
俺は何だかばつが悪くて、苦笑いを浮かべた。

「畑中くん始業式の日、僕に名前…聞いてくれたでしょう……?」
「ああ、うん」
「すごく、嬉しかったの…ずっとね、かっこいいなって…思ってたから……」

そこまで言って耳まで真っ赤にした顔を隠すように俯いた彼を見てると、こっちまで顔が熱くなってしまった。

「仲良くなりたいって言われて…嬉しかった。キス…だって、嬉しかったよ……」

たどたどしく、それでも一生懸命に言葉をつむぐ彼が可愛くてたまらない。
抱きしめたい気持ちでいっぱいだったけれど、虹が真っ赤な顔で俺を見つめたその瞳が泣きだしそうなくらい揺れていたから、ぐっと堪えた。

「畑中くんが気持ち悪いなら……僕は、もっと気持ち悪い」
「何で……」
「話した事もない男の子を……ずっと、好きだったんだもの」

虹の真っ直ぐな瞳と告白に一瞬息を詰まらせて、言葉を返すより先に口付けた。






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