中庭で虹と合流してから、事の顛末を問い質された。
虹にこんな面があるなんて意外で、聞かれるままに答えてしまった。
「マリちゃん、って…高田さん?」
「あー…そんな名字だったっけ…」
「今日一緒にいた人…でしょう?」
「そう」
虹と彼女は一年の時も同じクラスだったようだから、知っていたんだろう。
肯定すると複雑そうな顔をして目を泳がせたあと、恐る恐るといった様子で口を開いた。
「高田さん…畑中くんの事、好きなんだよ…」
「うっそだー」
彼女は何度か彼氏も出来たし、その度に俺と遊ぶどころか連絡も取らなかった。
恋人がいない間の遊び相手になる事は俺自身珍しくもないし、そんなはずない。
「1年の時、好きな人が振り向いてくれないから…告白してくれた人と付き合うって、言ってたよ…」
「ふーん……てか、よく知ってんね?」
「席、近かったから…」
膝を抱えてまたしばらく無言になった虹の隣で、虹が確認に行ってくれていた苗を確認していると虹が俺のブレザーをキュッと掴んだ。
振り返って視線を合わせると、泣きそうな顔をしている。
「好きじゃないのに…そうゆう事、ダメだよ……」
真っ直ぐ俺を見詰めたままそう言う虹に胸が苦しくなって、何も言えなかった。
言葉を探しながら話ているのか、たどたどしく虹が話続ける。
「好きな人が、振り向いてくれない…のは、悲しいよ……すごく、悲しい…」
今度は目を逸らしながら言った虹に胸に違う痛みが走った。
虹は、恋をしていると分かったから。
報われないって諦めてる。
そんな恋を、している。
「俺が……悪かったよ」
だからどうか、嫌いにならないで欲しい。
泣きそうな虹を抱き寄せて、滑らかな髪を撫でた。
虹は嫌がる事もなく、俺に身を預けている。
それだけで、幸せになれた。
「も…しないから」
「う、うん……」
「しないから、お願い」
身体を少しだけ離して、胸元にあった顔に頬を包み込むように両手を添えて視線を合わせた。
「俺の事、好きになって」
虹の黒いキレイな瞳が大きくなるのを視界に入れながら、その柔らかそうな唇に自分のそれを重ねた。
自分の気持ちに気づいたのは、唇が合わさった瞬間だった。