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昨日は薫が余計な事を言うから考えてしまって眠れなくて朝の花壇の水やりも間に合わず虹1人にさせてしまった。
ため息を吐きながら昇降口で靴を履き替えていると、背中に柔らかいものが当たる。
腹に回された腕に自分の手を重ねて首だけ回して確認すると、マリちゃんが上目遣いで俺を見上げていた。

「朝から大胆だねー」
「だって、透遊んでくんないんだもん」

濡れた唇をツンと尖らせてそう言う彼女の腕を外して頭を撫でると、気持ち良さそうに目を閉じた。

ついこの間までこの子のこんなところが色っぽくて気に入っていたのに、今日は早く離れて欲しい。

「畑中く……」

呼ばれた方へ目を向けると、虹が居心地悪そうに目を逸らした。
サッと冷や汗が流れるのを感じる。
何か言い訳を探すけど見つからない。

「おはよ…今日ごめん」
「う、ううん…僕先行くね…」

足早に去って行く虹を追いかけようとしたけれど、マリちゃんが俺の腕を掴んで行けなかった。

「今日はマリといてよ」

妖艶に笑う彼女に、小さく舌打ちをした。





その宣言通りというか何というか、マリちゃんは休み時間のたびに俺にまとわりついて離れなかった。

「今日マリ透の分もお弁当作ってきたんだよー」
「あ、ありがとー…」

昼休み早々俺の前の席の奴を追い払ってまでそこに居座った彼女は、二つある弁当のうちのひとつを俺に寄越した。
本当なら今ごろ虹と午前中に配達されたはずの苗を確認に行ったり中庭で昼飯を食べたりしていたはずなのに、虹に救いの目を向けてみたけれど困ったように笑って1人で行ってしまった。

「透、最近遠山ばっかりじゃん? 昨日も休みなのに遊んでくんなかったし」
「あー、ごめん」
「昨日何してたの? 他の女と遊んだの?」

弁当を食べながら止まる事なく続く追求に気が滅入りそうだった。

(彼女じゃないのに…何なのこれ)

彼女の言葉に適当に相槌を打ちながら詰め込むように弁当を平らげる。
もらっといて何だけど、あまり美味しくない。胸焼けしそうなのを堪えて無理矢理笑みを作った。
それに満足そうに頬を緩めた彼女は、すぐにまた不機嫌になる。

「透さ、マリと遊べないなら係やめちゃいなよ」
「は?」
「遠山みたいな根暗と一緒にいて、透おかしくなっちゃったんじゃないの?」

自分の頬がひくついたのが分かった。
彼女の事は可愛いと思っていたけれど、こんな事言われる筋合いはない。
虹が根暗?
俺がおかしくなる?

俺が音を立てて立ち上がると、マリちゃんもクラスの奴も一斉に俺に注目した。

頭が、沸騰しそうだ。

「お前に…虹の何が分かんの」

自分でもどこから出てるか分からないくらい低い声に驚いた。
女の子にこんなにいらついた事、ない。

「根暗? 話した事もねぇくせに。虹よりお前といた方がおかしくなるっての」

呆然と俺を見る彼女を置いて教室を出た。
意外と泣きもしなかった。
女って何考えてるか分からない。

俺は携帯を取り出して虹に電話をかける。
慌てた声が電話越しに聞こえて、頬が緩んだ。

「いま、どこ?」

返事をした虹に今すぐ行くと告げて、携帯をポケットに捩じ込みながら中庭へ走った。




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