帰って早々ベッドに転がって携帯を眺めていた。
虹と二人歩きながら、特に何の話もせずにいつものT字路で別れた。
『今日、楽しかった…ありがとう……』
俺は何だか名残惜しくてその背中が見えなくなるまで虹を見ていた。
(メール…して嫌がられないかな……)
ベッドの上で何度も体制を変えながらメール画面を開いたまま何も出来ずにいる。
今日お疲れ様だとか、薫が驚かせてかけてごめんだとか、送ろうと思えば送れない事はないのに。
「あー…どうしちゃったのかなぁ、俺」
「何が?」
突然掛けられた声に驚いて身体を起こすと、ドアから不服そうに俺を見る薫がいた。
「何だ薫か…」
「何だとは何よ、どうしたの?」
「てか、ノックとかないわけ?」
俺の抗議を何とも思わなかったらしい薫はそのまま部屋に入ってベッドに腰掛けた。
「何がどうしちゃったのかなぁ、なの?」
ニヤニヤと楽しげに目を細める薫に、俺はため息を吐くしかなかった。
薫はそれに気を悪くする事もなく、俺が話し出すのを待っている。
「……メール」
「ん?」
「メール、何て送ろっかなーって」
小さくそう言うと薫の目がパチパチと瞬く。
予想していた反応に、またため息を吐いた。
「んーと、虹くんに?」
「そう」
「アンタが、メールごときで?」
「……そう」
「どうしちゃったのよ」
「俺が知りたいっての」
薫は何も言わずにしばらく視線をさ迷わせると、ニンマリと笑った。
「アンタ、恋でもしちゃったみたいね?」
今度は俺がその言葉に驚く番だった。
薫によく似ていると言われる俺の事だ。きっと同じように目を丸くしているんだろう。
「固まっちゃったあたり…マジ、なの?」
伺うようにそう言う薫から目を逸らした。
聞かれたって分からない。
ただ、胸のどこかでカチリと音が聞こえた。