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ディアボロと相合傘

■ ■ ■

 外に出ると雨はすっかり土砂降りになっていて、参ったな、と一人ごちる。家を出る時に曇っているとは思ったけれど、まさかこんなに本降りになるとは思っていなかった。折り畳み傘を持って来るんだったな、と後悔しても、今更の事だ。
 幾ら家の近くにあるスーパーとはいえ、走ったとしても家に着く頃には濡れ鼠になっているだろう。傘を買うか、と仕方なしに息をついたのと、ほぼ同時の事だった。

「……ヒヨリ?」
「えっ?…あれ、ディアボロさん?」

 踵を返したところで背後から声を掛けられ、振り向いた先には、ディアボロさんが居た。そういえば私が出掛ける時に、ディアボロさんも出掛けていたっけ。私であると確認して此方に歩み寄って来てくれたディアボロさんに、助かった、とほっと息をつく。
 事情を説明すれば、ディアボロさんにさらっと買い物袋を拐われてしまう。きょとんと目を丸くしていると、彼は何事も無かったかのように「ほら、入らないのか」と不思議そうに言った。

「…あ、は、入ります。お邪魔しますね」
「ああ」

 勿論傘はディアボロさんの差している一本しかないので、必然的に相合傘というやつになる。傘も特別大きい物ではないので、幾ら私が標準より多少小さいとはいえ、ディアボロさんと二人で入るとかなり狭かった。ディアボロさんには買い物袋も持って貰っているし、彼が濡れたら申し訳ないな、なんて思って端に寄っていると、腰の辺りを誰かに掴まれ、ぐい、と中心に引き寄せられる。
 ぎょっとして視線を遣れば、ディアボロさんのスタンドである『キング・クリムゾン』の腕だったらしい。私の体を中心に寄せて、腕はすうっと空気に溶けるように消えて行った。「び、びっくりしたあ…」と思わず呟けば、ディアボロさんは私の方に視線を遣る。

「…あまり端に寄るんじゃあない」
「で、でも、ディアボロさんが濡れちゃうし…」
「俺は別に濡れても良いんだ。それよりお前が濡れる方が困る。…ほら、ヒヨリ、もっとこっちに寄れ」
「わ、わっ…!」

 ディアボロさんは再び『キング・クリムゾン』の腕を出し、傘を持たせる。そうして空いた右手で、私の腰を更に引き寄せた。先程よりも随分と距離が近くなり、私はディアボロさんの体にぴったりとくっ付く形になっている。触れている面から布越しに体温が伝わって来るようで、何だかこっ恥ずかしい。
 顔がじわじわと熱くなっていくのを感じて押し黙っていると、私の様子に気が付いたのか、ディアボロさんが小さく笑ったような気がして、ぱっと顔を上げる。ディアボロさんは顔を逸らしてはいるが、肩が震えていて、笑っているのは明白だった。か、と一気に顔が熱くなって、私は慌てて「す、スタンドの無駄遣いじゃあないんですかッ…!?」と声を上げたのだが、「有効活用だと思うぞ」と更に笑われてしまう。

「…ぐッ…ディアボロさんの馬鹿…」
「今入っているのが誰の傘か忘れた訳じゃあないな?」
「まさか。でも、優し〜いディアボロさんが、こんな土砂降りの中、か弱い女子を一人置き去りにするとは思えないですから」

 笑われた、というかからかわれているのが何だか悔しくて、わざとらしく言いながらディアボロさんを見上げる。ふん、と鼻を鳴らした私は我ながら可愛くないと思うが、この際良いだろう。ディアボロさんは珍しくきょとんとした表情を浮かべた後で、く、と目を細めた。…ンン、嫌な予感…?
 未だに腰に回ったままの手に力が籠もったのを感じた次の瞬間、視界の端にふわりとピンク色の髪が掠めた。驚いて身を引こうとしたが、腰を掴まれている以上、取れる距離もたかが知れている。ディアボロさんは私の耳元に口を寄せ、静かに口を開いた。

「…そうだな。大事なヒヨリが濡れてしまっては事だ。雨に濡れるヒヨリもさぞ可愛いのだろうが、風邪を引いて苦しむ姿は見たくないからな。もっと俺の方に身を寄せてくれないか」
「えッ、…あ、う、…!?」

 トドメと言わんばかりにこめかみ辺りに唇を押し付けられ、「ひょあッ!?」と喉の奥から素っ頓狂な声が漏れる。かあっと顔を赤くしながら反射的に顔を上げると、ディアボロさんと目が合った。まだまだだな、と言わんばかりに、挑発的に片眉を上げて得意気にしている。その表情に、更に体温が上がったような気がして、慌てて顔を背けた。
 普段はこんな事絶対に言わないのに、ここに来てイタリア人みたいな口説き文句を使って来るとは思わなかった。…あ、いや、ディアボロさんってイタリア人か。こういうこっ恥ずかしくなるような台詞は使う人を選ぶと思うのだが、ディアボロさんも何だかんだ顔が整っている人なので、やはり様になっている。…悔しいけど、ちょっとカッコ良かった。悔しいけど!

「………う、ううッ…い、家に帰ったら覚えてて下さいねッ…!」
「な、何故だッ!?」

 悔し紛れに言った一言に食いついたディアボロさんは一転して普段の調子に戻っていたので、密かにほっとする。慣れていない私にとって、あれは心臓に悪い…。ディアボロさんにはああ言ったけれど、家に帰ってから別に何をしようとも思っていない。
 けれど、からかわれた仕返しに、私も少しだけからかわせて貰う事にしようかな。そう思って、私はあわあわとしているディアボロさんと共に帰宅するのだった。