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失敗と胸騒ぎ


 アヴドゥルさんと花京院くんは、ポルナレフさんの様子を見に行く。空条くんとジョセフさんは、移動手段の確保に向かった。そして私は、情けない事に疲労で動きが鈍いので、先程のカフェで待機――という事になっている。言ったそばから足手まといだ。これだから駄目なんだよなあ…。
 はああ、と深いため息をついて頭を抱え込む。先日新しい技が出来たとはいえ、オリジナルに比べれば威力はたかが知れている。慣れていないせいか集中力もかなり使うので疲れるし、まだまだ改良の余地はあるらしい。補助系はどうしたって補助系という事だろうか。

 どんどん沈んでいく思考に思わず、どんよりとしていた時だった。ゆるりと顔を上げ、何気なく見回した店内。まさに今お店のドアをくぐって出て行った男の手に目が行ったのは、つい先程まで『両右手の男』について話していたからだろう。私は見てしまった。今の男の左手は――『右手』だった。

「っ、ちょ、っと待った…!!」

 慌てて立ち上がり、お店を出る。辺りを見回せば、男は丁度小さな路地に繋がる角を曲がったところだった。人の間を縫うように駆け抜けて路地の前まで来たが、細く薄暗い道に思わず足が止まる。――もしかすると罠かもしれない。そう思うと体が震えた。
 私のスタンドは皆のように強くはない。そう分かっているからこそ、余計に足は竦む。きょろりと辺りを見回してみるが、勿論見知った姿は見えない。

 …でも、行くしかない、か…?そう思い、再び路地の方に体を向けた時だった。

「この先は行き止まりだぜェ、お嬢ちゃん」
「ヒッ!?」

 先程まで誰もいなかった筈が、目の前には一人の男が立っていた。珍しいガンマン風な装いの男は煙草をぷかりとふかすと、私の頭をぽんぽんと叩くように撫でる。男がカウボーイハットのつばを指先で上げたので、口端を吊り上げてニヒルな笑みを浮かべているのが見て取れた。
 まさか目の前に人がいるだなんて思わなかった私は、警戒心も相まって一歩後ずさる。しかし男は気を悪くしたような様子も見せず、寧ろ「いい子だ」と何故か私を褒めた。

「この辺りの路地はお嬢ちゃんが通るような道じゃあねーのさ。そのまま後ろの大通りを選ぶ方が賢いぜ」
「あ… で、でも、その、私…」
「人でも探してんのかい?だがこの先は行き止まりだ、見間違えたんだろうよ」

 目の前の男は、どうしても私を通してくれないらしい。あっさり引き下がるのもどうかと思ったが、こうしてまごついている間に、おそらくあの怪しい男はもう逃げてしまっただろう。
 迷わず路地に入っていったところを考えると、この辺りの地形に詳しいのかもしれない。そうだとしたら、追いつくのは尚更難しいという事になる。

 どうも、私はまた役に立てなかったらしい。小さくため息をついて、私は「…分かりました…」と呟くように答える。男は再び私の頭をぽんぽんと撫でると、追い返すように私の背中を押した。

 大通りに戻ってちらりとあの路地の方へ向けば、あの男はもう姿を消していた。――何だったのだろうか。小さく首を傾げたものの、分かる訳もない。もう一度カフェに入ろうかとも考えたけれど、居心地が悪くなるだけだろうと考えた私は、辺りをちょろちょろする事にしたのだった。

「――チッ、邪魔しやがって…。景気づけに一発やろうと思ったのによォ〜…」
「旦那ァ、時間がかかったらDIO様に殺されちまうぜェ。さっさと始末してその辺の女引っかけりゃあ済む話じゃあねーか」
「…フン。行くぜ」

――そして私が去った後。あの路地の奥で、そんな会話が繰り広げられていた事を、私は知る由もない。


***


 私がカフェを飛び出してから、数十分経った頃だろうか。何やら辺りがにわかに騒がしくなり始めた。どうやら此処から少し離れた場所で何かがあったらしい。
 人が集まり始めているのが見えて、首を傾げる。勿論気になったというのもあるけれど、それ以上に胸の辺りがざわつくようなおかしな感覚が、私を駆り立てた。

 ――行かなくてはならない。何故かそう思った。私は堪らず駆け出し、人ごみを掻き分けるようにして『何か』の中心へと向かう。進めば進むほど、ざわついた感覚が大きくなっていくように思う。
 そして、もみくちゃにされ、吐き出されるように人ごみの中から這い出た私が目の当たりにしたのは、血が滲んだ土の上に身を横たえて動かないアヴドゥルさんの姿だった。

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