黄瀬とバレンタイン

「そういえば、栗屋さんは俺にチョコレートくれないんスか?」


にこにこ。既に両手いっぱいのそれを抱えて、黄瀬は私に声をかけた。普段すっからかんの鞄もチョコレートでいっぱいのくせに、一体どうやって持って帰るつもりだろう。放課後の教室は、オレンジ色に沈んでいつもより表情がやわらかい。さっさと部活に行けばいいのに。


「ないよ、私別に黄瀬の彼女でもないし。早く部活に行ったら?」
「そんなこと言ったらここにあるの全部俺の彼女からのじゃないっスよ」
「でも黄瀬に好意を持っている子たちでしょう。私、黄瀬にそういう感情持ってないから」
「つれないっスねー」


ぷうう、と頬を膨らませる。元の顔が良いので普通に可愛いが、私はそんな表情をされても嬉しくない。
私は、黄瀬涼太という人間が苦手だ。
華やかでやさしい仮面の下には、つめたい素顔と毒がある。


「栗屋さんがチョコレートくれるなら、これ全部窓から投げ捨てたっていいっスよ」


視線を上げると、にっこりと黄瀬は笑う。綺麗な、左右対称の笑顔。
ひやり、つめたい風が背中を撫ぜた。


「・・・やめてよ。黄瀬なら本気でやりそうで怖い。恨み買うの私なんだから」
「だって俺、本気っスもん。こんな重たくて邪魔なもん部活に持ってったらシバかれるっス」


だから、ね?
とびきり甘い声で、こてんと首を傾げて。
そんなものに私が揺らぐと思っているのだろうか。無視をして、日誌を書きはじめる。なんで日誌なんてものがあるんだろう、本当に面倒だ。


開け放した窓からの風が私と黄瀬の髪を揺らした時、ふわり、唇になにかが触れた。それは人気モデルと名高い彼のものであったのだけれど。


「隙ありっス」


じゃあ部活行ってくるっス、ばいばい、なんて言って、黄瀬は無責任に教室を出て行った。残されたのは私と、悪戯な唇の熱と、チョコレートの山。


「・・・私が、処理しろってか」


このままにしておくわけにもいかず、鞄にその可哀想なチョコレートたちを詰めこむ。下の方は潰れてしまっているかもしれない。随分重くなった鞄を手に、黄瀬への呪詛を吐きながら、私は教室を出た。唇の熱はまだ、消えない。


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何が書きたかったのか。←

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