繋ぐ重なる



「土方君、僕は君が虫酸が走る程嫌いだ」



「喧嘩売ってんのかコラ」



とある朝、屯所の食堂にて。
土方は青筋を立てながら伊東を睨みつけた。
側に座っていた隊士が、ひ、とすくんでいる。
見かねて山崎が参謀、と立ち上がりかけた時。



「だがしかし、それは君の誕生日を祝わない理由にはならない」



「・・・は?」



予想外の言葉に、土方は口をぽかりと開けて硬直する。
伊東はその表情が気に入らなかったのか鼻をならし、どん、と酒の瓶を土方の前に突き出した。



「君のことはいずれ殺してやろうと思っているが、それとこれは全くの別物だ。君のことが嫌いであるからと言ってこの日を嫌いになる程僕はこどもではないし、第一そのようなことは筋に合わない。・・・これは後で好きに飲めばいい、君が普段ちびちびやっている安酒とは比べものにならない高級品だ」



「・・・そりゃどうも」



状況を未だ掴めないまま取り敢えず礼を言うと、「貧相な語彙力だな」とせせら笑われた。
くそ、やっぱり気に食わねェ。



「全く、素直じゃないなああの人は」



顔を上げると、山崎がへらりと笑って向かいに座っていた。
そして、何でもないように副長、誕生日おめでとうございますと口にする。



「・・・そういえば今日だったか」



「えええええ!?忘れてたんですか!?」



「この年になって誕生日楽しみに待ってる野郎がどこにいるんだよ」



「ハァ・・・副長らしいと言えば副長らしいですけど・・・」



苦笑いする山崎に今日の予定を伝えながら朝食を腹の中に収めていく。
マヨネーズはやはり今日も美味い。
するとそこに、沖田がふらりとやってきた。
土方とその前にあるマヨネーズがたっぷり乗せられた朝食を見て、げんなりとした表情を見せる。



「んだよ、何か文句あんのか総悟」



「ありまくりでさァ、何朝っぱらから犬の餌ちらつかせてんでィ取り敢えず死ねよ土方」



「犬の餌じゃねェ土方スペシャル朝食バージョンだ」


「それを犬の餌って言うんですぜ」



「んだとコラ。表出ろや」


「一人で出といてくだせェ俺ァ今マヨネーズに下剤仕込むので忙しいんで」



「あああああああ!何してくれてんだ総悟テメー!」



「ふくちょーう、見回りまだですかー」



その時、ひょこりと顔を出したのは真選組の紅一点・副長補佐栗屋詩音。
我に返って今行くと返事をし、土方は残りの朝食をかきこんだ。

















「暑くなってきましたねー」



「そうだな」



「副長、ア「奢らねーぞ」・・・チッ」



けちだニコ中だなんだと騒ぐ詩音を無視して、すたすた歩く。
見回り中にこいつに構っていては駄目なのだ。
無心になって仕事をこなそうとする土方の横で、詩音はぼんやりと屋根屋根に上るこいのぼりを眺めている、らしい。
静かになったのなら取り敢えずそれでいいと視線を前に戻した瞬間、腹立たしくも見慣れてしまった銀髪がちらついた。
条件反射で舌打ちをする。



「一般市民に向かって舌打ちたァどーいう了見ですか多串君」



「多串じゃねェ土方だ。大体碌に税金払わねェ奴に一般市民だ云々言われる筋合いはねェ」



「あ、銀さん久しぶりー」



「おー詩音ちゃん、多串君にセクハラとかされてない?困ったらいつでも銀さんのとこに来ていいんだからね!」



「誰がするかァァァァァァァァァァ!」



「そーいえばさァ、」



「オイ人の話聞けよコラ」



「多串君、今日誕生日なんだって?」



何故知っているのかと思ったが、大方ドSコンビで仲の良い沖田あたりが教えたのだろう。
短く返事をすると、坂田はにやにやと例の人をおちょくる笑みを浮かべた。



「ぷぷっ、多串君がこどもの日生まれとか似合わねー」



「余計なお世話ァァァァァァァァ!てめーに関係ねーだろうが!」



「ぷ、くく、ま、まァそう怒んなよ。おめでとさん」



「・・・てめーに祝われると気持ち悪ィ」



「おまっ、銀さんが折角祝ってやったのに気持ち悪いって!気持ち悪いって!」



「五月蝿ェよ。詩音、行くぞ」



「はあい。銀さん、元気出してね!副長はあれだから、ちょっとツンドラなだけだから!」



「誰がツンドラだ!冷てェって言いてーのか、ああ!?」



「やだなあ副長、ツンドラじゃなくてツンデレですよう。もう、お馬鹿さんなんだからっ」



「・・・殴っていい?ちょ、殴っていいかなこれ」




坂田と別れ、土方と詩音はゆっくりと屯所へと歩いていた。
こんな穏やかな日にはテロリストも犯罪を起こす気になれないらしく、今日は至って平和な一日だ。



・・・まあ、その平和も夜のどんちゃん騒ぎでぶち壊されることになるのだが。


















「みんなァ、トシの誕生日だ!盛大に祝うぞう、今日は無礼講だ!」



「「「「「うおおおおおおおおお!」」」」」



「五月蝿ェ・・・」




アンタはいつも無礼講だろうがと近藤に呆れながら、土方は今朝伊東に貰った酒に口をつけた。
・・・確かに美味い。



「土方さァん、何むすっとした面してんでィ。折角の酒が不味くならァ」



「てめーの酒なんざ知ったこっちゃねーよ。大体未成年だろうが」



「俺ァ永遠の18歳ですぜ!そんなこと言ってたら一生酒なんか飲めやせん!」



「あーハイハイ。わかったからてめーはどっか行け」



酒が絡むといつも以上に面倒臭い沖田をどこかに行かせ、ふうと息をつく。
思えば、ここ最近仕事がたてこんでゆっくりと酒を飲む時間などなかった。
今日くらいは良い酒を(伊東に貰ったというのが少しばかり癪だが)一人で味わうのも悪くない。
土方は一人縁側に出た。
頬を撫ぜる夜風が心地良い。



そういえば。
男ばかりのこの宴会で、あいつはどうしているのだろうかと、ふと思った。
いつも自分の側にいる、飄々とした、でも人一倍あたたかでやさしいあいつは。



「土方さあん」



・・・この真選組に、例外などいる筈がなかった。
ほんのり顔をあかくした詩音が、覚束ない足取りでこちらにやって来る。
この短時間で相当飲んだのか、それとも元から弱いのか。
かなり酔っている、らしい。




「へへ、ひじかたさん、しゅやくがこんなとこで何してるんれすかあ」



「・・・ゆっくり飲みてェ気分だったんだよ」



「ふーん。となり、お邪魔しまーす。とうっ」



「おわっ!」



詩音は土方の隣に勢いよく腰を下ろし、足をぶらぶらさせている。
・・・いつもの隊服じゃなく非番や寝る時用の甚平の為、白い足が夜の闇によく映えた。




「土方さん、何人の足じーっと見てんれすかあ、へんたーい」



「はっ!?馬っ鹿、違ェよ!見てねーよ!」




大体、何でお前は「土方さん」なんて呼んでんだ。
調子が狂う。




「ひじかたさあん」



「あ?」



「たんじょーびおめでとーございます」



「・・・ああ、ありがとな」



「なんか買ってくらさーい」



「なんで俺が買わなきゃいけねーんだよ!普通逆だろ!」



「?なに言ってんれすかあ、土方さんにはもう買いましたよう」



「・・・は?」



「男の人がよろこぶものとかよくわかんなかったれす」



だからてきとーにえらびました、と言われ、渡された大きな袋。
かさり、と布のような音がした。



「あけてみてくらさい」



言われるままに開けると、中には紺色のシンプルな着流し。
良い物であるのが伝わってくる。



「気に入らないなら返してくらさいね、私が着るんれすから」



「・・・いや、気に入った。ありがとな」



「・・・えへへへへー」



不器用なせいであまり言葉で伝えられない代わりに、頭をぽんぽんと軽く叩く。
喜んでもらえたのがそんなに嬉しかったのだろうか、詩音はとろけたような笑みを見せた。




(・・・くそっ、)



何でこいつ、今日はこんなに可愛いんだ。



「ひじかたさあん」



「・・・何だ」



「ひじかたさんのことが、すきれす」



すぐ後ろの喧騒が、すうっと遠くに行った気がした。
とろんとした目の詩音。
いくら酔っているとはいえ、全く微塵も心に思っていないことを口に出すことはないだろう。
それならば、これは。



「ひじかたさん、すき。だいすき」



「・・・ああ、俺もだ」



瞬間、詩音はふわりと笑った。
じゃあ両想いですねえ、なんて言葉に、こちらが赤面する。



月が照らす、やさしい夜。
ぴたりと寄り添う二人は喧騒に包まれ、やがて見えなくなった。



アルコールとノンアルコールの奇跡


(翌朝何も覚えてない、なんて)

(それだけは勘弁!)





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