しあわせが鼓動する



秋らしい高い空を、銀時はいつもの社長椅子をがたがた言わせながらぼんやりと眺めていた。
平和な休日。大体いつも休日だとか言っちゃいけない。
机の上には、先程飲みほしたいちご牛乳の紙パックが転がっている。



(つーか・・・何で俺一人なわけェェェェェェ!?)



そう。只今万事屋には、銀時一人しかいない。
新八と神楽は妙の家に遊びに行き、詩音は・・・知らない。
こんな特別な日に、自分一人しか家にいないなんて悲しすぎる。ロンリーすぎる。ハッピーバースデイトゥーミー、なんて一人で歌うのはごめんだった。



(大体なんで詩音がいねェんだよ、ガキ二人はいなくてむしろ清々するけどさァ)



意味もなくぐるぐる部屋の中を回ってみたり、社長椅子をがたがた言わせてみたり、いちご牛乳を飲みほしてみたり(まだ半分もあったのに!)。
きっと窓の外から覗く人があったなら、銀時はさぞ奇人変人に見えたことだろう。



と、その時。
ピィンポーン、と多少間の抜けたチャイムが鳴った。
いそいそと玄関に向かうと、引き戸の向こうに人影は見えない。



「んだよ・・・ピンポンダッシュか?」



わざわざ階段上ってまでご苦労なこった、と思いつつ、下に様子を窺う餓鬼がいたらとっ捕まえてやろうと勢いよく戸を開けた。



「「「「ハッピーバースデイ!」」」」



「・・・は、」



いやいやいや。
いやいやいやいや。
ぱちくりと見開かれた目、パァンと騒々しいクラッカー、無駄にカラフルなセロハン。
これは、誕生日お約束の。
そう頭ではわかってはいるのだが、いまいち自分のこととして受けとめられない。
そうしてぽかんと立ち尽くす銀時を、腐れ縁4人はけらけらと(いや、若干ゲラゲラとかにやにやが混ざっていたかもしれない)笑った。



「馬鹿みてェにつっ立ってんじゃねェよ、さっさと狭い家に入れろ」



「あっはっは、金時、おまんとんだ間抜け面ぜよ!」



「ヅラじゃない、桂だ!」



「いや、小太郎のことじゃないし」



余程外にいるのが嫌だったのだろう、高杉は銀時を押しのけて居間に入っていった。坂本と桂もそれに続く。
詩音は下から銀時を見上げ、びっくりした?とにやりと笑った。



「び・・・っくりしたわァァァァァァァ!銀さんマジで心臓飛び出るかと思ったからね!?」



「うん、すごい間抜けな顔してた。iphaneで写真撮っとけばよかったな」



「撮んなくていーからァ!何、誕生日の銀さんを貶めたいの、ロンリーハッピーバースディトゥーミーさせたいの!?」



「そうさせないためにこうやって来たんじゃん、」



みんな。
その言葉がやけにあたたかくて、心の奥がじいんと痺れた。



「行こ、銀時」



「・・・行こ、って俺の家なんですけどォ」



「家賃滞納しまくってるけどね」



「うるせー。そのうち返すからいんだよ」



居間では、既に3人がたくさんの食べものを広げてお祭り騒ぎが始まっていた。
そこら辺にからっぽの缶ビールが転がっている。



「なんでテメーらは我慢ってもんができねーんだよォォォォォォ!ちょっと良い雰囲気だったのにさァ!今日の主役銀さんなんですけどォ!主役ほったらかして飲んでんじゃねェェェ!」



「アハハハハー、金時がなんか怒っちょる」



「ほっとけほっとけ」



「高杉ィ!お前はまた酒を一人占めして・・・お酒はみんなのもんだってこの前もお母さん言ったでしょうが!」



「テメーを母親に持った覚えはねェよ。大体俺が持ってきた酒は俺のもんだろうが」



「違いますう、今日は俺の誕生日だから俺のもんなんですう、つーわけでその酒寄越せやァァァァァァ!」



「銀時!ちゃんとみんなで分けないとケーキなし「よォし、コップ寄越せ!テメーらの分銀さんが注いでやらァ!」・・・ほんとに、もう」



酒で顔をほんのりあかくして、くだらない話をたくさんして、たくさん笑って。
ああ、これが「平和」ってやつかもしれないなんて、ぼんやりと思った。
以前この5人で一緒にいた時は、考えもしなかったこと。



(柄じゃねーなァ、)



生まれてきたことを、この馬鹿共と出会えたことを、いるか知れない神様とやらに感謝したくなるなんて。
酔いが回ってきているのだろうか、らしくないことを考え、銀時は一人笑った。



「銀時、飲んでる?」



「おー。ね、ケーキは?つーかお前飲みすぎじゃね?」



「まあだ、ヒック、ぜんぜん」



「顔赤ェけど?それは誘ってんのかなァ、銀さんのこと」



「潰すぞ」



「酔ってても辛辣なツッコミ!酷!銀さん傷ついちゃう!」



「・・・ねー、銀時」



「なァに、詩音ちゃん」



「私、今幸せ。たぶん」



幸せ。
その言葉は、銀時にとって曖昧な、いつだってもやもやとした未知なるものでしかなかった。
明確に「幸せ」を感じられたあの短い季節は遥か昔に遠ざかり、そのかたちを覚えないまま此処まで来てしまったから。



でも。
今、微かに動いた、やわらかなそれは、きっと。



「・・・俺も今、幸せだと思う」



「ふへへ、一緒〜」



ふにゃりと笑う彼女を抱きしめ、その鼓動を感じる。
周りでやんやと騒いでいる馬鹿共は取り敢えず放置して、聞こえるか聞こえないか、吐息とともに零した。



「ありがとよ」



その温度と貴い鼓動を


背負って笑って生きていく



**************
銀さん、遅れてごめんなさいいい!
ぐだぐだJOYとのほのぼのを書きたかったのだけど・・・撃沈・・・
貴方が主人公だから、今のぎんたまはあります!ほんとにほんとにありがとう!だいすき!
銀時Happybirthday!(遅)





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