アイスクリイムととろけた夏



今日も快晴。
雲ひとつない空を見上げ、沖田はくわあ、と猫のような欠伸をひとつした。
問題は、昼寝をするには些か暑すぎること。
お天気お姉さんが爽やかな笑顔で告げた最高気温を思い出し、げんなりする。
少々見つかりやすいが、今日はクーラーをつけた自室で昼寝をするしかないだろうと沖田は結論に辿り着いた。
それと同時に、庭を挟んだ廊下に上司を見つける。
げんなり9割増し。
そしてその隣に、一番隊副隊長詩音の姿。
迷わずバズーカを構え、一瞬後、爆音と煙があたりを支配した。



「総悟ォォォォォォォォ!」



「おっ、沖田隊長!副長に向かって何してるんですか!」



「ふう。詩音、大丈夫ですかィ?」



「ああ、私は隊長が咄嗟に手を引いてくれたおかげで・・・ってバズーカ撃った張本人が何しれっとしてるの!?ねえ!」



「よォし総悟、今日こそ切腹だ。俺が介錯してやる」



「あれ、どっから湧いて出てきたんですかィ土方さん。すげェやそのゴキブリ並みの生命力。ていうか髪も隊服も黒いからもはやゴキブリそのものですねィ、ぷぷぷ」



「なんでお前にそこまで罵倒されなきゃいけねーんだよ!むしろ俺被害者だろうが!」



「詩音、お前今日俺と見回りだったよなァ?何ぼさっとしてんでィ」



「えええええ!?」



「置いていきやすぜ、さっさとしなァ」



「ちょっ、ちょっと待ってくださいよー!」



気が済んだのかふらりと去った沖田を見届け、一番の被害者の深い溜め息。



「餓鬼かよ、あいつは・・・」



いや、まだ18歳だったかと思い直し、煙草に火をつける。
暑い暑い午後は、まだ始まったばかり。















「暑ィ・・・アイス食いてェ」



「そんなこと言ったって買いませんよ、見回りしてるんですから」



「散歩だろィ」



「見回りです!」



この不真面目な上司をどうしたものかと頭痛を覚えながら、詩音はちらりと隣を盗み見た。
ほんとうに暑さに参っているらしい、沖田は若干虚ろな瞳をしている。
暑いのも駄目で寒いのも駄目なこの人にきちんと見回りさせるのは骨が折れると、心の中で溜め息を吐きながら。



「いっこだけですよ、」



「あ?」



「そこのコンビニでアイスいっこだけですからね!ちゃんとその後逃げ出さないで見回りしてくださいよ!」



「母ちゃあん、俺破亜限奪取以外はアイスって認めねェんでそこんとこよろしく」



「誰が隊長のお母さんですか!奢ってもらう人のアイスはガジガジ君って相場が決まってるんです!」



「なんでィケチ」



「スーパーの氷食わせますよ」



「・・・・・・」



コンビニの冷気で体力を回復したのか、沖田は意気揚々とアイスクリームのコーナーに向かっていく。
呆れてその後に続くと、よォ、と聞き慣れた声に呼びとめられた。



「銀さん、久しぶり」



「ほんと久しぶりだなオイ。アレか?俺に会いたくなくて部屋に籠ってたってアレか!?銀さん傷ついちゃう!」



「・・・元攘夷志士だから斬ってもいいよね。むしろ副長に誉められて昇進できるんじゃないコレ、よォし」



「ややややめろって!な?忙しかったんだな、見回り満足にできねェくらい忙しかったんだな、わかったから!わかったから詩音ちゃん、その物騒なものをしまいなさい!」



「はあ、銀さんまであんまり頭痛くなるようなこと言わないでね。面倒見るのは沖田隊長で手一杯なんだから」



「苦労してんだなァ、オメーも。今度銀さんと甘味食べ放題でもどうよ、話聞いてやっから」



「とか言って私に奢ってもらう作戦でしょ、もう。・・・あーでも、甘いものお腹いっぱい食べたいかも」



パフェにプリンに色とりどりのケーキ、餡蜜もいい。
じゃあ今度の週末にでも、と誘う言葉は、口から零れる前にぶった斬られた。



「見回り中の無駄話は切腹に値するって局中法度、詩音は忘れたんで?」



レジ袋を提げた沖田が、ゆっくりとこちらへ向かってくる。
笑顔が怖い。それはそれは怖い。



「そ、そんな局中法度ありません!」



「ありまさァ。俺が今つくりやした」



「どんだけ横暴ですかアンタは!」



「さっさと行くぜィ」



「あーもー・・・じゃあ銀さん、またね」



「おー」



ゆるりと手を振って、銀時は雑誌のコーナーへ歩を進める。
こりゃ甘味の約束は無しになりそうだ、とぼんやり思いながら。














コンビニを出てから、沖田の機嫌が悪い。
すこぶる悪い。
歩きながらアイス食べないでくださいと言うと、睨まれた上に舌打ちまでついてきた。
全く、何だっていうんだ。



「詩音、」



「、はい」



「今週末、休み返上で仕事な」



「なっ・・・!」



「ちなみに拒否権はありやせん」



喉元まで出かかった文句をぐうと押し止める。
どうせこの人は何を言ったって聞きやしないのだ。
いつもいつも世話や面倒ばかり押しつけられ、やっとできた休みも我儘ひとつで潰される。
こんなに酷い扱いを受けなければならない程嫌われているのかと思うと、ぽたりとしょっぱい雫がおちた。
戸惑う沖田が視界のまんなかで歪んで揺れる。
そうだ、そうして反省して行いを改めればいいんだばかやろう。



「おま、なんでいきなり」



「・・・も、いいです。つかれました」



「いや、おい、」



「そんなに私がきらいなら他の誰かに副隊長やってもらえ沖田ばかやろー!」



ぽかんと阿呆面を晒している沖田を置いて、詩音は走り出す。
何度拭っても鮮明にものを写さない瞳が悔しい。
何より、あんな人を好きになってしまった自分が悔しい。
屯所に飛びこむと、いつもミントンをしている監察の彼が目に入った。



「や、やまざきさん!」



「え、どうしたの詩音ちゃん、何で泣いて、ってうおわっ!」



思いきりダイブすると、洗剤の匂い。
安心して、またぼろぼろと涙が零れてくる。
それを見られたくなくて、隊服にぎゅう、と顔を押しつけた。



「詩音ちゃん・・・?」



戸惑いつつもよしよし、と頭を撫でてくれる体温が優しい。
お母さんみたいだ。



「山崎ィ、」



いつもよりも数トーン低い声が、後ろからやってくる。
ひ、と情けない声が聞こえた。



「そいつから離れなァ」



ふ、と腕の力を緩めると、山崎はするりと詩音から離れた。
袖で乱暴に顔を拭いて、後ろを振り返る。



「まだ何か用ですか、沖田隊長」



「・・・来なせェ」



ぐい、と手を引かれ、されるがままについていく。
誰もいない廊下で、沖田はふと足をとめた。



「・・・ほんとにわかんねーんですかィ」



「・・・なにが、ですか」



「俺ァドSで、独占欲が強いんでさァ」



「それは知ってます」



「だから、そういうことでィ」



「え?いや、どういう・・・「あー、だから、」



「その、お前のことがすきだから、他の野郎と話してんの見てると苛つくっつーか、」



握られた手が、あつい。
まるで指先に血液ポンプが移動して、指先から体中に血が巡っているみたいだ。



「・・・何かあるなら、俺に言いなせェ。頭は良くねェけど悩みぐらい聞けるし甘味処ぐらいいつでもつれてってやるし・・・い、いつでも抱きしめてやりまさァ」



だから、俺から離れんな。



「・・・はい」



地球から地球に発信しています


(やっと届いた、)



*********
友紀様リクエストの沖田嫉妬夢、でした!
なんか無駄に長い気が・・・ 笑
私の中で、総悟はもの凄くやきもちやきです。誰にでも嫉妬します。
この後山崎は理不尽にボコられ、ヒロインと総悟は週末甘味食べ放題に行くでしょう。多分。
とにかくやりたい放題の総悟が久しぶりに書けて楽しかったです!
友紀様、素敵なリクエストありがとうございました!そして遅れてごめんなさい(土下座)!





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