優しい休日



(ああ、幸せ・・・)


朝の柔らかな日差しが射し込むなか、詩音は布団の中でごろごろと微睡んでいた。今日は日曜で仕事もなく、怖い上司もドSな上司も休日を満喫していることだろう。詩音も彼らのお守りをする必要はなく、今日はのんびりできる。


(もふもふの布団、のんびりできる休日・・・これ以上に幸せなことってないよねー)


ああ、毎日こうだったらいいのに・・・などと呑気に考えていた、その時。


ドゴーン


(な・・・何!?)


明らかに異常な爆発音。


(まさか、敵襲!?)


寝間着の甚平姿に剣を手にとって、詩音は部屋から飛び出した。












「何しやがんだ総悟ォォォォォォ!」
「え、何って土方さん殺そうとしたんですが・・・チッ、失敗した」



「ふざけんなァァァ!失敗したじゃねーんだよ!人の命ゲームみてーに奪おうとすんじゃねェ!」
「人・・・土方さんって人だったんですかィ。そいつァ初耳だ、俺はてっきり地球外生命体かと」
「違ェェェェェ!」


・・・何だこれは。
ドSな上司がバズーカ撃って、怖い上司がそれにキレている、と。
つまり。


(あたしはこの二人の喧嘩に穏やかな朝の邪魔をされた、という訳か)


詩音の燃え上がる怒りも知らず、二人の喧嘩は更にヒートアップしている。


「大体土方さんは休みの日も朝から煩いんでさァ、ジジィになって早く目が覚めるからってごそごそしないで下せェ」
「ちっげーよバカ!誰がジジィだ!大体ほぼ毎朝バズーカぶっぱなしてくんのはテメーだろうが!」
「えー俺ですかィ?俺がいつも何時何分何秒地球が何回回った時にバズーカぶっぱなしてるって言うんでィ」
「うぜェェェェェ!」
「土方さんうざいとか言ったらいけないんですぜ、先生が言ってやした」
「どこの先生!?テメー学校行ってねーだろうが!」
「夢の中で行ってたんでさァ。土方さんをどれだけ痛めつけて殺すかを学びに」
「Σどんな学校!?」


二人は喧嘩(本気である。周囲から見ればただのコントだが)に夢中で、詩音が怒り心頭なのに気付かない。
そして、とうとう


「二人ともいい加減にしてください!」


詩音の雷が落ちた。











「朝から何してるんですか二人とも!」


縁側で、男二人が正座をして女の子に説教をくらっている。


「バズーカ撃ったり騒いだり!江戸の皆さんの安全を守る真選組が、江戸の皆さんの迷惑になってどうするんですか!もうちょっと自分の行動に責任を持ってください!」


詩音の説教に「穏やかな休日の朝を邪魔された」という私怨が入っていたことは、この際黙っておこう。


「・・・いや、俺悪くなくね?」


小さく反論を試みた土方の勇気は、


「喧嘩両成敗です!」


という詩音の言葉に敗れさった。


「副長の方が年上じゃないですか!それなのに毎日毎日同じパターンで喧嘩して!少しは学習して大人の対応してください!」
「ぷぷぷ、ざまァ見なせェ土方」


この時土方の脳裏には、沖田を殺すありとあらゆる方法が走馬灯のように駆け巡ったという。


「沖田隊長もですよ!」


詩音は沖田をぎゅっと睨み付けた。


(・・・重症ですねィ、俺ァ)
そんな表情でさえも、可愛いと思っちまうなんて。


「意味もなくバズーカ撃つのやめてください!一般市民の皆さんの迷惑です!」
「へーい。善処しやす」


適当な返事をしてから、沖田はそれはそうと、と詩音を見た。


「詩音、今日は随分といい天気ですねィ」
「?そ、そうですね」


突然切り替わった話題に、詩音の頭はついていけない。


「休みの日にこれだけ天気がいいのって、久しぶりな気がしやせん?」
「・・・まあ、言われてみれば」


確かに、空はすっきりと晴れわたっていて、湿度も気温も丁度良い。思えば、最近はじめじめとした天気が多かったような気もする。


「そこで、でさァ」
「はあ」
「こんな日は、のんびり散歩するのが良い休日の過ごし方だと俺ァ思うんですがねィ。詩音はどう思いやす?」
「え、うーん・・・。良いと思います」
「じゃあ今日は散歩に行きやしょう」
「へ?あ、あの、沖田隊長」
「待っててやるから、20分で支度しなせェ」


・・・相変わらず我が儘で強引な上司。
でも、嫌いじゃない。


「てか、20分とか絶対間に合いませんから!」


うわぁぁぁ、と慌てて詩音は自分の部屋に飛び込んでいった。沖田もいつの間にかゆらりとどこかに消え去っている。


(・・・あれ、俺何してんだっけ?)


1人取り残されて悲しくなった土方は、取り敢えず煙草を一本取り出した。深く吸って、空を見上げる。沖田の言う通り、確かに良い天気だ。


(・・・さあ、仕事でもするか)


鬼の副長に、休みはない。













急いで着替えてぱたぱたと外に出ると、沖田は既に準備を済ませて待っていた。


「はい3秒遅刻ー」
「細か!細かすぎですよ隊長!」
「3秒でも30分でも遅刻は遅刻でさァ」
「鬼ー!」
「まあ、今日の俺は機嫌がいいんでアイス1個で許してあげまさァ」
「・・・はい」


アイス1個なら安いもんか、と思ってしまう詩音は、もう末期なのだろう。


「ところで沖田隊長、どこに行くんですか?」
「・・・気に食わねえ」
「は、はい!?どこら辺がですか?」


自分の浴衣だろうか。
着物はもうさすがに蒸し暑いので、今日の詩音は薄い水色に撫子の花がついた浴衣だ。甘過ぎなくて普段使いに丁度良く、詩音は結構気に入っていた。


「その沖田隊長っていうの。堅苦しい感じがしまさァ」


ああ、そうなのかと詩音は安堵する。
浴衣が気に入らなかったならどうしようと考えていたのだ。


「じゃあ何て呼べばいいですか?」


沖田は少し考えてから、


「総悟でいい。同い年なんだから敬語も要りやせんぜ」


と早口で言った。


「わか・・・った。えっと、そ、総悟でいいんでしょ?」


うわあ。
これは思ったより相当恥ずかしい。
沖田は満足気に笑って、「こっちでさァ」と詩音の手を引っ張った。


うわわわわ。
これじゃ、これじゃまるで、
・・・恋人同士じゃないかっっ!


(この人は・・・)


詩音はちらりと上機嫌で自分の手を引っ張る沖田を見た。


(あたしの気持ちを知っててこんなことするんだろうか?)


あたしが沖田隊長のこと、すきなこと。


(・・・まあいいか、)


今日はそんな難しいこと考えなくて。
詩音は手を小さく握り返して、自分より少し早い沖田の歩調に合わせた。













「うわぁぁぁぁぁ・・・!」


詩音が喜びの声を上げているのは、新しくできた甘味処。沖田が連れて来てくれたのだ。


「何でも好きなの頼みなせェ」
「いいんですか!?」
「俺が連れ出したんだから、これくらい俺が奢りまさァ」


えー、どれにしよう、と真剣な表情で悩む詩音を見ると、自然に沖田の頬も緩む。
詩音は散々悩んで、あんみつを頼んだ。
沖田は三色団子。


「美味しい!美味しいよ総悟!」


興奮気味の詩音は、沖田の瞳がいつもより優しいことに気付かない。


「そりゃ良かった。・・・詩音、」
「ん?」
「好きでさァ」


詩音のあんみつを食べる手がぴたりと止まった。まじまじと沖田を見つめる。だんだんと赤くなる沖田の頬。


「あの、沖田隊長、今のは・・・」
「五月蝿い。何回も言わせんな」


そう言う頃には沖田の頬は既に真っ赤で、ぷんとそっぽを向いてしまった。


(い、今のは、えっと・・・沖田隊長に、こ、告白された?)


びっくりだ。
今日は槍が降るんじゃなかろうか。


沖田隊長にあんみつを奢ってもらって、告白されるなんて。


「あ、あたしも・・・」
「え?」
「あたしも沖田隊長のこと好き、です」


言った途端、涙が零れてあんみつに落ちた。
嬉しい。夢みたいだ。
ずっと手の届かない人だと思っていた。だから上司だけど叱ってみたり、世話を焼いてみたりしてその距離を縮めようと悪あがきしていた。


「ちょっ、詩音っっ・・・」


ああ、駄目だ。
このままだと沖田隊長に泣き顔を見られてしまう。浴衣の袖で涙を乱暴に拭うと、詩音はにっこりと笑ってみせた。


「嬉しいです、こんなの夢みたい」


瞬間、沖田は詩音をぎゅっと抱きしめた。


「俺もでィ」


優しい風が、二人の横を撫でていった。


君の優しい瞳に溶け込んで

・・・ところで詩音、さっきから隊長呼びと敬語に戻ってるんですがねィ

へ?・・・あっっ!

次からはおしおきですぜ

なっ・・・!

うわ、詩音今変なこと考えたーやーらーしー

ち、違う!

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のんへの捧げものです。
のんに限りフリー!




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