君と一緒に
「詩音、」
「ん?」
久しぶりに、桂とのんびり過ごす日曜日。詩音は本を読み、桂はぼーっとテレビを見ていた。
「すまないな」
突然の謝罪の言葉に、詩音はどう反応すればいいのかわからない。
「? な、何いきなり。どうしたの?」
「いや、」
約2か月ぶりに会った彼氏は、もごもごと口の中で何か呟いている。
「はっきり言って」
「・・・こんな、毎日毎日攘夷に命懸けてるような彼氏ですまない」
はあ?と詩音は首を傾げた。
「そんなの今に始まったことじゃないでしょ」
「そうだが」
「いいの、あたしはとっくの昔にそんなこと納得してるから。何年一緒にいると思ってんのよ、あたしたち」
「・・・20年くらい、か?」
幼少の頃、すなわちまだ桂たちが松陽先生のもとで学んでいた頃から詩音は桂たちと一緒にいる。
「とにかく、この話はもう終わり。さあ、テレビ見よ!」
「・・・ああ」
桂は微かに笑って、テレビ画面に視線を戻した。
そして、その番組を見終わって、CMが流れている時。
「小太郎」
「ん?」
「・・・小太郎はいつもの小太郎みたいに、自信満々にしてればいいの」
「・・・?」
桂には、詩音の言葉の言わんとするところがよくわからないようだ。
「だからー、」
詩音は視線をテレビに留めたまま、早口で次の言葉を零した。
「あたしが小太郎のこと好きなのは今までもこれからも変わらないし、あたしは小太郎がいなきゃ駄目だから、だから別れるなんて馬鹿なこと考えるんじゃないってこと!」
言い終わった時には詩音の頬は真っ赤で、ぷいっとそっぽを向いてしまう。桂は10秒程かけて彼女の言葉を咀嚼し、飲み込んだ。柔らかな微笑を浮かべて、桂は詩音を後ろから優しく抱きしめる。
「つまらないことを言って、すまなかった」
「本当よ」
「やはり、俺もお前がいないと駄目だな」
「あたり前でしょ」
やや不機嫌そうな表情のまま、詩音は呟く。
「あたしだけ依存してるなんて、悔しいじゃない。毎日小太郎の電話を受話器の前で正座して待ってるなんて」
「・・・そうなのか?」
「馬鹿。嘘に決まってるでしょ」
「ええっっ!」
「まあ、毎日楽しみにしているのは本当よ」
「そ、そうか」
今日はやけに素直だな、と思いながら、桂はそっと詩音に問いかけた。
「詩音、」
「何?」
「・・・俺と会えない間、寂しいか?」
はぁ?と詩音は首を傾げる。
「いきなり何」
「いや、なんとなく聞いてみただけだ」
「ふーん。小太郎は寂しいの?」
「寂しい」
「へー。エリザベスと会えないより?」
「ああ」
「蕎麦が食べられないのより?」
「ああ」
ふふ、と詩音は堪えきれなくなったように笑った。
「おかしいか」
「ううん、あたしも小太郎と同じくらい寂しいよ」
「っそ、そうか」
会えなくても、
そっけない態度でも、
やっぱり二人は恋人同士な訳で。
寂しいのも、相手のことを想う気持ちも、一緒な訳で。
「ねえ、小太郎」
「ん?」
「今日のお馬鹿な質問は指輪で勘弁してあげる」
「なっ・・・!」
「これから先、別れるとか勝手に決めてどっか行ったら殺すから」
「・・・もう一生言わない」
「そうして」
一瞬躊躇った後、詩音は小さく呟いた。
「何年待ったと思ってるの、馬鹿」
拗ねたようなその様子が可愛くて、桂はそっと詩音に口づけた。
「詩音、」
「うん」
「俺はたぶんこれからも、お前のことあまり構ってやれないと思う」
「うん」
「でも、詩音のことを愛してるのは俺が生きてる限り変わらないから」
「うん」
「だから、・・・俺と、結婚して欲しい」
「・・・引退したらのんびりあたしに尽くしなさいよ」
「ああ。約束しよう」
詩音らしい条件に、桂は柔らかく笑った。
「詩音、愛してるぞ」
「ああそう・・・そういうところ、好きよ」
時が流れても、
永遠に君と愛をうたおう
そうだ!この国を変えることができたら、詩音に大きな別荘をやろう!
いや、いらない
ええ!?
・・・どんなに大きくて立派な別荘でも、小太郎が一緒じゃなきゃ意味がないのよ
・・・そのくらい察しなさい
そ、そうなのか
じゃあ、・・・家で蕎麦でも食べながらゆっくりするか!
ふふ、そうだね
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みぃへの捧げものです。
みぃに限りフリー!
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[mokuji]
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