ディスイズマイワールド



「やばい、もう駄目。死ぬ」



「死なねーよ、おらもう1問。それ終わったら休憩な」



「うー」



唸る詩音を見て、銀八は笑む。
放課後の国語準備室。
受験を控えた詩音は、銀八に現国の個人授業を受けていた。



「あー、終わったー!休けーい」



詩音が古びたソファ(銀八がなんたら先生から奪ってきたものだ)にダイブする。
ぎしり、と音をたて、ソファは意外としっかり詩音を受けとめた。



「詩音ちゃーん、パンツ見えてる」



「え、嘘」



「嘘」



銀八が投げてよこしたいちご牛乳にストローを差し、詩音はぽつりと呟いた。



「ねえ、銀ちゃん」



「あー?」



「なんか、もう疲れたよ」



窓の外をぼんやりと眺めていた銀八が振り返ると、詩音は力なく笑っている。



「・・・お前んとこ、親五月蝿かった?」



「んー、五月蝿いというか、無言のプレッシャーがね」



「あー」



「がんばれってしょっちゅう言われる」



「そりゃキツいわ」



「でしょ?期待してくれたり心配してくれたりしてるのはわかるんだけど・・・重い、んだよね」



銀八は、自分の生徒兼彼女である詩音をまじまじと見つめた。
こんな風に彼女も悩むのだ、と。
そんな当たり前のことに、今更のように気がついた。



「銀ちゃんさー、」



「んー?」



「銀ちゃんは、がんばれって言わないよね」



「あー、そりゃオメーが言われなくても頑張ってっから」



「・・・そ?」



銀八はソファに座っている詩音の前にしゃがみこみ、頭をぽんぽんと叩いた。



「お前はよく頑張ってるよ、ほんと」



その手のあたたかさに、銀八のやわらかな笑みに、泣きそうになる。
この言葉が欲しかったんだ、と思った。



「銀ちゃ、」



「何?」



「ぎゅーってして」



「おー」



銀八の体温に包まれて、詩音はゆっくりと目を閉じる。



「・・・詩音、」



「ぐう」



「ぐうじゃねーよ」



「ぐうぐう」



「・・・15分たったら起こすぞ」



「おー。ねー銀ちゃん、」



「ん?」



「だいすき」



「俺も」



「受験終わったらいっぱいぎゅーってしてね」



「おうよ」



「ちゅーもしてね」



「たりめーだ」



「結婚もしてね」



「おー・・・え?えええええ!?」



「あたし子供はふたりがいいな。おやすみ」



詩音は銀八の心臓の音を聞きながら、うとうとと眠りにおちていく。
頭上で銀八が何やらぶつぶつ言っている気がするが、・・・いいや、今は、今だけは聞こえないふりをしよう。
オレンジ色が、ふたりをやわらかくやさしく染め上げていった。



ちょっと休憩、


(立ち止まってもいいさ、)

(また前を向くことができるなら)





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