刻まれたあか



或るよく晴れた秋の日のこと。詩音が出張を終えて久しぶりに屯所へ戻ってくると、隊士たちがやけに騒がしい。
クリスマスもまだ先なのに何だろう、と詩音は首を傾げながら、土方の部屋に入った。



「ただいま、十四郎。皆浮かれてるけど、何の騒ぎ?」



「あ?あれだろ、今日はハロウィンだろ」



「・・・あー、そっか」



土方は一度顔を上げると、またすぐに視線を書類に戻す。その素っ気ない動作が気に入らず、詩音は土方の背後に回りこみ、その背中にもたれた。



「ハロウィンっつーのは女子供が喜ぶ行事だろうが、なんでうちの隊士がこぞって浮かれて、お前はそんなに冷めてんだよ」



「冷めてるんじゃないよ、忙しすぎて今日が何日かよくわからなかっただけ」



「くたびれた中年みてぇだな」



「五月蝿い」



詩音は瞼を軽く閉じて、昼寝の態勢に入った。
ここなら居心地良く、数十分は微睡むことができそうだ。



「・・・菓子、いらねぇのか」



とろとろと意識が溶けていく途中、土方の声が聞こえた。



「いる。・・・でも、後で」



「じゃあ夜な」



「うん」



ああでも夜に食べたら太るな、どうしようかと思案しながら、詩音は「十四郎は?」と訊く。



「あ?何が」



「お菓子、いらないの?」



「俺は、」



ほんの少しの間考えて、土方はにやりと笑った。



「お前が良いな」



とろとろとしていた意識が、あっという間に覚醒する。



「あたしはお菓子じゃないわ」



「知ってるよ」



そして、いつの間にか詩音は土方に抱きしめられる。もう眠いとかそんなことは言っていられない。



「・・・今、昼よ」



「夜まで待てねェ。一週間もお預けくらったんだ」



「そんな、の」



反論する隙も与えられず、首筋にキスがおとされた。
赤いちいさな華が、陶器のような詩音の白い肌によく映える。



「・・・十四郎、吸血鬼みたい」



唇がおとされたところを軽く指でなぞりながら、詩音が笑う。



「・・・んなもんに喩えられんのは、あまりいい気はしねェな」



土方は眉間に小さく皺をつくったが、また何事もなかったようにキスを続ける。
今度は、唇と唇で。



「おかえり、詩音」



「ただいま」



吸血鬼は君を欲す


(それは優しく貪欲に)





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