「詩音ー」



「何ー」



「かくれんぼしましょう」



「は?」



詩音は聖十字学園に遊びに来ていたアマイモンに、怪訝な眼差しを向けた。



「何で」



「ボク、兄上に日本の色々な遊びを習いました。鬼ごっこはこの間やったので、今日はかくれんぼ」



面倒そうに詩音は読んでいた本に目をおとした(世界一簡単な悪魔のつくり方、という本だ。これを読んで何に役立てるのかは謎である)。



「誰とやったの、鬼ごっこ」



「奥村燐」



なかなか楽しめましたよ、とアマイモンは笑う。



兄上には怒られたけど、とも。



「奥村燐・・・?」



「詩音、奴を知ってるんですか?」



「ううん。奥村雪男なら知ってるけど。新入生代表の挨拶したから」



「ふーん」



祓魔塾に通っていない、普通の聖十字学園の生徒である詩音は、雪男の顔をぼんやりと思い浮かべた。



友達はかっこいいかっこいいと騒いでいたが、詩音はさほど興味がなかった為、印象的なほくろと眼鏡しか覚えていない。



「かくれんぼしないんですか?」



「メフィストとやれば?」



「詩音とやるからおもしろいんですよ」



「・・・その表現なんかやだ」



一向にやる気を見せない詩音にアマイモンはつまらなそうな顔をして(いい年こいてかくれんぼをノリノリでする方がどうかと詩音は思うのだが)、詩音の読んでいた本を奪った。



「あっ」



「詩音をボクが見つけられなかったら、ボクが駅前のケーキ屋のケーキ詰め合わせを詩音に奢る、ってことで」



「・・・1回だけだよ」



「はい。十分です」



そして詩音とアマイモンのかくれんぼが、静かに幕を上げたのだった。











「あー面倒くさい」



詩音は小さく呟いて、ゆっくりとしゃがみこんだ。
ここは、聖十字学園のとある廊下にある隠し扉の中。
詩音が偶然見つけて、今も時々利用している。



中はそれほど広くなく、人が二人ほど横になれるくらい。
まあ、詩音が昼寝するには充分だが。



アマイモンが降参を電話で知らせてくるまで少し眠ろうかと、詩音は持って来ていたタオルを敷いて瞼を閉じた。












15分程眠っただろうか、詩音がふと目を覚ますと、アマイモンがじーっと詩音の顔を覗きこんでいた。



「Σうわああっ!」



「おはようございます」



「なっ、なんでいるの!?」「なんでって、詩音を探しに来たからです」



見つけました、とアマイモンはいつもの調子で言う。



「・・・よくここがわかったね」



「兄上に学園の地図をもらいましたから」



「はあ!?」



ちょっとそれずるくないか、と内心でつっこむ。



「あー、何だか眠くなってきました」



「うん話の流れ軽く無視したな」



「というわけでおやすみなさい」



「え、ちょっ」



アマイモンは詩音を抱き枕のようにして、床に寝ころぶ。



押しても少し暴れてもびくともしないその体に溜め息をついて、詩音は諦めて再び瞼を閉じた。



少し早いアマイモンの鼓動が、きこえる。



みーつけた


ほらね、どこにいたって


ボクは君を見つけられる
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