そのごっ!





「暇ですねえ、沖田隊長」




「暇ですねィ・・・。詩音、面白くねーからここで3回回ってワンしなせェ」




「い、嫌です!あーあ、何かこう・・・胸がときめくような出来事がないですかねえ」




「詩音がときめくとか・・・うぷっ」




「Σ何なんですかさっきから!いいですよ、どうせときめくとか似合わないですよ!ふん!」




「ふん?・・・詩音、路上でトイレはいけやせんぜ、さすがの俺もドン引きでさァ」




「そのふんじゃないいいいいいいい」




長閑なある日。
詩音と沖田は、新しいサボりスポットを探そうと見回りに励んでいた。
この二人が組むと、大抵碌なことがない。




「そういや、今日は山崎見かけねーなァ」




「ああ、山崎さんなら潜入捜査とか何とかで一週間前からいませんよ」




「チッ、つまんねー。土方コノヤロー暗殺計画第78弾でも立てようかねィ」




「な、78・・・。副長って不死身なんですね」




「んな訳ねーだろィ。奴が死んじまうと色々つまんねーから仕方なく俺が生かしてやってんでィ」




「・・・・・・そうですか」




「大体アレでィ詩音、こないだの計画失敗はテメーのせいでさァ」




「ええええええっ!?いつのことですか、てかこないだってどれですか!」




「俺が折角土方のマヨに下剤ぶちこもうとしてたのに、テメーが『何してるんですか、沖田隊長ー』とか抜かしやがるから土方にバレたんでさァ」




・・・ああ、アレか。
昼食の時に沖田が土方スペシャルに何やらごそごそやっていて、不思議に思ったから興味本位で訊ねたのだ。




それがまさか土方暗殺計画阻止なんていう壮大なことになっていようとは。
グッジョブ!
グッジョブあたし!




「・・・色々突っ込みたいこと満載なんですけど、さっきの『何してるんですか、沖田隊長ー』ってあたしの真似ですか」




「似てるだろィ」




「どや顔で言うのやめてください、大体あたしそんな変な喋り方じゃないです!・・・多分」




「いーや、詩音はこんな喋り方ですぜ。雌豚として調教してきた俺が一番良く知ってまさァ」




「Σ雌豚になった覚えも調教された覚えもありません!」




「まァそういう訳でさァ、暗殺計画阻止した責任取って一緒に考えなせェ」




「いーやー!犯罪に加担したくないいい!減給されたくないいいいい!」




「なーに言ってんでィ、今日俺と見回りのシフト一緒になった時からテメーは土方暗殺計画の一員でさァ。ぱちぱちぱちー」




「何ですかそれェェェェェ!ちょっ、さりげなく甘味処に連れこもうとしないでくださいよ!・・・・・・あ、副長」




嘘ではない。
詩音たちの数メートル前方で、土方が何やら話しこんでいる。




・・・若い女性と。




「おおお沖田隊長、暗殺計画どころじゃないです!」




「あん?」




「副長が、副長がおお女の人と一緒に歩いてます!」

「マジですかィ、そりゃ写メっとかねーと」




遠目から見ても、綺麗な女の人だ。
おしとやかそうで、優しそうで、「大和撫子」という表現が良く似合う。
自分と正反対のような女性に、思わず見惚れた。




「・・・何ぽけっとしてんでさァ。いつもの阿呆面に磨きがかかってやすぜ」




「はっ!い、いやー、綺麗な人だなー、と・・・」




写メったんですか、と訊くと、携帯がずいと突き出された。
成る程、写真には二人が仲睦まじく喋っている(ように見える)様子が写っている。




「詩音、アンタなーんも感じねーんですかィ?」




「は?何をですか?」




「・・・いや、何でもありやせん」




そうにやりと笑った沖田の表情は、何かよからぬことを企んでいる時のそれで。
詩音は反射的に後退りする。




「詩音、土方コノヤローのとこに行きやしょう」




「うぇ!?い、いやでも今、多分取り込み中・・・」




「いーから」




「いやいやいや、あたしまだあの、あんな美人さんに至近距離で会う心の準備が・・・」




詩音がそう言っている間に沖田はずんずんと土方に近づき、「あり、土方さんじゃねーですかィ」と白々しく挨拶をしている。
ちょこちょことついてきた詩音も、そっと顔を上げるとばちりと女の人と目が合ってしまった。




(うわわわ、睫毛長っ!肌白っ!この垂れ目がまた・・・ふわー、近くで見ても可愛いなあ・・・)




あんまりじいっと見つめていたので、女の人は困ったように笑って、首をこてんと傾げた。
それを見て、沖田と土方が笑いを噛み殺す。




「はっ、うわ、すみません、つい見とれちゃって・・・」




「毎日見飽きてる顔に何言ってんだテメーは」




「いや、凄いです、こんな綺麗な人、生で見たのはじめて・・・へ?何言ってんですか副長?」




「こいつの顔なんて、もう見飽きる程見てんだろ」




「・・・・・・・・・は?え?あの、それってどういう・・・」




「お前、ここまで来てわかんねーんで?」




沖田はもはや呆れ顔だ。
詩音はもう一度、女の人を凝視した。




「・・・俺だよ、詩音ちゃん。わかる?」




「ふ・・・えええっ!?やや、や、山崎さん!?」




「声がデケェよ馬鹿!」




「いだっ!」




そう言われれば、確かに僅かだが面影がある。
また困ったように笑い、山崎は「潜入捜査がやっと終わった帰りに、副長に会ってさ」と事の次第を説明した。




「ふう、わー・・・何ですかもう、びっくりさせないでくださいよー・・・山崎さんなら山崎さんだよって、沖田隊長が教えてくれたらよかったのに」




「んな面白ェのに、教える馬鹿はいやせんぜ」




「あたしは面白くなあああああい!」





















その日の夜。
山崎が風呂から上がって縁側で熱を冷ましていると、詩音がやってきてじーっと山崎の顔を見つめた。
そして、がくりと項垂れる。
「な、何、どうしたの詩音ちゃん」




「なんか・・・山崎さんの女装が女のあたしより綺麗って・・・落ち込む・・・」




ずどん、という効果音がついてきそうな落ち込み方の詩音に、山崎は笑う。
そして、そっと詩音の頭を撫でた。




「詩音ちゃんは、普段あんまり化粧しないだけだよ。本気になったら、俺よりずっとずっと綺麗になるよ」




「ほんと、ですか・・・?」




「ほんとほんと。何なら、今度の休み、化粧してあげようか?」




「ただで・・・?」




「こんなことでお金取ったりしないよ」




それにほら、と山崎が詩音の頬に触れる。




「詩音ちゃんの方が髪も傷んでなくて綺麗だし、肌も俺なんかと全然違う」




「・・・っ!お、おやすみなさい山崎さんっ!」




「え?・・・ああ、おやすみ」




(俺なんかした・・・?)


去り際の詩音の頬があかい理由に気づかないまま。
山崎はふわあと欠伸をして、「・・・俺も、寝よ」と一人呟いた。




綺麗、だなんて


(あんな至近距離であんなこと、)


(落ち着け落ち着けあたしの心臓!)