そのろくっ!





「くあ、眠い・・・」




「寝てていいですぜ、永久に」




「Σ最悪ですねアンタ!・・・ごほん、沖田隊長、見回りは?」




「サボり」




「ちゃんと行かないと駄目ですよー、ちなみにあたしは非番でーす」




「・・・なんかうざいんでぶった斬る」




「なんでェェェェェェェ!?」




沖田に縁側という楽園での昼寝を邪魔された詩音は、目をしぱしぱさせて隣の蜂蜜色を眺めた。
太陽の光が当たってきらきらしているそれは、正直眩しい。近寄らないで欲しい。




「詩音、この美青年沖田様のために場所空けなせェ」




「え、ここあたしの特等席「バズーカ使って力ずくでどかされたいですかィ」どうぞお座りください沖田様ァァァァァ!」




「最初から素直に言えばいいんでィ」




全く、この職場はどうなってるんだ。
上司はゴリラとかマヨラーとかドSとかヘタレとか。
バリエーション豊富すぎる。仕方がないので詩音が場所をずらしていると、丁度ヘタレの上司がやって来た。




「あ、山崎さん」




「・・・山崎ィ、それどうしたんでィ」




「ミン・・・げふん、休憩してる時に見つけたんですけど、どうやら屯所に迷いこんじゃったらしくて」




山崎が抱えていたのは、少し肥満気味の三毛猫。
可愛い、と喉を撫でてやると、ゴロゴロと気持ち良さそうに目を細めた。




「今日の夕飯はコイツで決定ですねィ。なあ、でぶ猫」




「Σ沖田隊長ォォォォォ!?駄目ですよ、今飼い主が見つかるまで屯所で保護って、副長に許可もらってきたんですから!ほら!首輪あるし!」




成る程確かに、埋もれかかってはいるが赤い首輪が見える。
沖田の舌打ちとともに山崎が猫を縁側に下ろすと、猫は詩音の膝にごろりと横になった。




「うわ、ふわふわ!もふもふ!可愛いー!」




「チッ、でぶ猫のくせに生意気でさァ」




「へ、何ですか?」




「別に。おいでぶ猫、俺の膝に乗ってみろ、それがテメーの最期でィ」




「Σ猫相手に何脅迫してんですか!ていうか沖田隊長、見回りは?」




「サボり」




「・・・どうでもいいですけど俺のこと巻きこまないでくださいよ」




「拾えてもらって、よかったねえ」




ぽつりと零された詩音の言葉に、山崎と沖田が反応する。
詩音は一瞬きょとんとした後、「あ、口に出てましたか」と笑った。




「いや、あたしもこんな風に真選組のみんなに拾ってもらったんだなって」




詩音は、江戸での隊士募集の張り紙を見て面接を受けに来た。
結果は・・・まあ、この通りである。




「あたしほら、親いないし。みんなに拾ってもらえなかったら、どうなってたんだろうなって今、思って」




優しく撫でる手に、猫がぴくりと反応した。
詩音がにこりと笑うと、またふてぶてしく居眠りを再開する。
その手をとめないまま、詩音はぼんやりと庭を眺める。
その瞳は、やさしい。




「あたし、ここに拾ってもらって良かったです」




「・・・違うでしょ」




思わず声が出た。
驚いてこちらを見つめたまるい瞳に、山崎は口ごもる。




「その、拾ったっていうのは少し、俺の中では違う感じがするんだ」




拾われたんじゃない。
拾ってあげたんじゃない。
そんな、厚かましいことではなくて。




「んー、なんていうか、なあ・・・」




「山崎、わかるように説明しなせェ」




6つの瞳が、こちらを見つめる。
山崎は緊張しながら、言葉を紡ぐ。




「詩音ちゃんは、さ。あの時、真選組の一員に『なった』んだよ」




「へ?いや、そりゃなりましたけど」




「いや、そういう所属的な意味じゃなくて。何て言うのかなあ、うん。ぽんって飛び込んできた、って感じ、かなあ。ぽんって飛び込んで、馴染んだんだよね」




「・・・・・・自発的だった、ってことですか?」




「うーん・・・『拾う』っていうのはさ、俺たちの意志だけって感じがしない?詩音ちゃんの意志とか関係なく、『この子、可哀想だから拾ってあげよう』みたいな」




「そ・・・う言われれば、そうかも」




「でもさ、詩音ちゃんが真選組の一員になったのは、違う、んだよ。詩音ちゃんが『真選組に入りたい』って思ったのと、俺たちが『この子を入れたい』って思ったのが、歯車がかちん、て噛み合ったの。・・・まあ、俺がそう、思ってるだけなんだけど・・・・・・」




「ザキ、いいこと言うなあ!」




「きょ、局長!?」




近藤が、いつものように豪快に笑いながら出てきた。
廊下の角であの大きな体を縮めてこっそり聞いていたと思うと、吹き出しそうになる。




「チッ、サボりながらそういう話すんじゃねーよ。休憩時間にやれ。山崎後で切腹な」




「ふ、ふくちょおおおおお!?」




「・・・と言いてェところだが、今日は免除してやる。次サボったら切腹」




「山崎のくせに、たまには良いこと言うじゃねーか。斬る斬るしか言わねー土方さんとは大違いでさァ」




「てめ、誰のせいだと思ってんだ総悟ォォォォォォ!」




いつもの追いかけっこがはじまり、近藤が「仲が良いなあ!」と笑っている。
その喧騒に紛れ、詩音はぽつりと呟いた。




「・・・ありがとう、ございます」




「別に、お礼言われることじゃないよ」




「・・・・・・!」




わざと聞こえないように呟いたのに、どうやらしっかり聞き取ったらしい。
とんだ地獄耳だ、と詩音は笑う。




「山崎さんのくせに、格好つけすぎですよ」




「えええええええ!?」




情けない声にまた笑みを零すと、屯所の門に誰かが佇んでいるのが見えた。
膝の上の猫がそれを見つけてもぞもぞ動きはじめたので、そっと地面に降ろしてやる。
駆け寄っていく猫から視線を外し、詩音は夕日の中、佇む人にゆっくり会釈した。




どうやらここがあたしの『居場所』らしい

(最高にむさ苦しくて最高にあったかい、)


(優しい優しいこの場所が、)