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 プレゼントを配ろう! 聖域編



 白羊宮の前に漂う緊張感。一瞬即発といった空気に、息を呑む音すら聞こえそうな錯覚に陥る。片や重厚な衣装を身に纏い、片や金色の光を放つ衣を纏い立ちはだかる。良く似た顔立ちの二人の前には一人の女性。赤を基調とした衣装の所々に施された白い飾りは、俗に言うサンタの格好だ。
「空気を読んでくれるのは有難いんだけど、実況はどうでもいのよ貴鬼君」
「だ、だってお姉ちゃん……」
「貴鬼君からも通すように進言してよ。ね?」
「貴鬼を買収したって無駄ですよ、沙希」
 藤色の髪を靡かせムウさんが冷たい笑みを浮かべる。話には聞いた事があるが、星矢君達が十二宮を突破した時もこのような威圧感を受けていたのだろうか。
「クリスマスですよ!? ちょっとくらい良いじゃないですかっ!」
「ならん」
「ぐっ……シオン君まで」
 人が恥を忍んでミニスカサンタの衣装を着用しているというのに、話すら聞いてくれないとは。発言を片っ端から一刀両断していく彼等の背後には、いつの間にか他の宮の守護者達までもが集まってきている。流石に多数の黄金聖闘士を相手にするのは面倒極まりないし……かといってここで引き下がってしまうと当初の目的が達成出来ないわけで。
「そも何故後の二人を連れてきた」
「え」
 シオン君が苦渋の表情で背後の双子神を指さす。人様に指を向けては、と突っ込みたいところだがシオン君から発せられる怒気が凄まじいので空気を読むことにした。
「ここは女神の治める領域ぞ。冥界の住人が来るべき所ではない」
「めっ、冥界の住人じゃないってば!」
「ハーデスの手下に違いはなかろう」
「違うって! もーちゃんとよく見て!!」
 双子神の後に回り二人の背を押せば、同じタイミングで一歩だけ前に前進する。
「これは動くツリーだから! 間違ってもタナトスとヒュプノスじゃないから!!」
「……」
「……」
 無言を貫く双子神。彼等を可哀想な目で見つめる聖域の守護者達。なんだなんだ、このやってしまいました感満載の空気は。滑ったという単語では言い表せないような冷え切った空気は、真冬という季節に相応しい温度を持って心を冷やす。
「まぁ、その、なんだ。動くツリーでもダメだ。ちゃんとあった場所に返してきなさい」
「えー! 折角頑張って飾り付けたのに」
 大げさに肩を落とす私に降り注ぐ視線。違和感を感じ顔を上げれば色違いの瞳がじっとこちらを見ていた。
「沙希、満足したか?」
「もうそろそろいいだろ」
「……全然よくありません」
 疲れ切った雰囲気を醸し出す双子神を見上げ、こうなったら実力行使だとキーワードとなる単語を紡ぐ。
「タナトス、ヒュプノス。あれ、だして」
 具現化した音に双子神は目を伏せ、緩慢な動作で腕を一振り。
「うぉっ!?」
 突如背後に出現した山のような大きさの麻袋にどよめきが走る。いつまで経っても平行線の議論では時間を無駄に消費するだけ。ならば、いっそのこと先手を打ってしまえばよいではないか。やったもの勝ちという単語が脳裏で小躍りするのを確認し、私はゆっくりと片手を上に上げる。
「沙希、何をするつも――」
 慌てたように片手を伸ばすムウさんに満面の笑みを向け、勢いよく中指と親指を擦り合わせる。
「メリークリスマス!!」
 パチン、という軽やかな音と共に巨大な麻袋はしぼみ、代わりに出現したのは……。
「な、なんだこれは!」
「どうなっているのですか!」
「だってクリスマスですもの!」
 暗くなりつつある風景を押し返すよう色とりどりの電飾が煌めく。極彩色に彩られた十二宮は見上げるだけでも壮観だ。
「説明してください、沙希」
「説明もなにも飾り付けをしただけですけど」
 入って飾り付けが出来ないのならば、遠隔で。時空を歪ませ多重次元を操り馬鹿馬鹿しい事をするのはワタシの十八番だし、なにより楽しい事を提供してくれと沙織ちゃんに頼まれたのだから、今回の事は大目に見て貰えるだろう。
「上空から見ると、もっと綺麗なんだろうなぁ」
 真っ暗な暗闇に浮かぶ光は、見る者に楽しい気持ちを与えてくれるだろう。実際の住人達がどう思うかは知らないが、外部が楽しめればそれでいいのだ。
「私達の負けのようだな、ムウよ」
「……悔しいですが、そのようですね」
 重いため息を付く師弟を前に、私は再度同じ言葉を繰り返す。
「メリークリスマスです、シオン君、ムウさん」
「……メリークリスマス、沙希」
 苦笑混じりの言葉に満足し、私は今にも帰りそうな双子神の腕を両腕で補足した。
「まだまだ夜はこれからですよー?」
「……勝手にしろ」
「致し方あるまい」
 同じ顔で違う態度の二人を見上げると、懐かしい温かさに触れたような気がしてこそばゆい気持ちになる。この二人の前で照れを見せたら後で馬鹿にされるに決まっているのだから。
「では次なるパーティーへ行ってみましょー!」
 表情を見られないよう前傾姿勢で一歩を踏み出し、音にならない「ありがとう」を呟いた。
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