非現実な現実

「い……いたたたたたっ!」
「……全く……何をしておるのだ、お前は……」
 普段やりなれない事をした結果がこれ。……お礼を言いに行こうなんて考えなければ良かった。全てはあの時吹いた風が悪いのだ、と己の事を棚に上げて断続的に襲ってくる痛みに耐える。
「い、痛い痛いっ」
 足首の状態を診てくれているシオン君だが、わざとやっているのでは? と思うほど痛い。丁寧に扱ってくれているのは分かっているのだが……いかんせん痛すぎる。私が文句を言う度に重いため息をつく彼。
 ふと漏らされた、これくらい自身でも治せるじゃろうに、という単語が引っかかった。
「治せるってどういう事?」
「ヒーリングくらい出来んか」
 ……ヒーリング? 癒しの曲満載のCDとかに使われているあのヒーリングという単語と同じ意味合いなのだろうか? 言葉の意図が読みとれないといった表情を浮かべる私に、シオン君はまたため息をひとつ。
 口で言うより実際に見せた方が早いと考えたのか、シオン君は私の足の治療をし始めた。木漏れ日のような暖かさと共に引いていく痛み。ものの数分としない内に私の足はすっかりといつも通りの状態に戻っていた。
 なるほど……これがヒーリングか。
 頭の中に収められている膨大な知識の中には、確かにあのようなやり方もあった気がする。
「……まだ整理がついてないんだもん……仕方ないじゃない」
 一度に詰め込まれた知識は未だに全て把握出来ていないのが現状。
 ついこの間まで一般人だった私が、急に慣れる事なんて出来るはずがない。これは一度きちんと整理をした方がいいかもしれない。
「ねぇシオン君、付き合ってくれない?」
「…………」
「どうしたの?」
「か、構わんが沙希は……いいのか? 」
「……? シオン君が良いならね?」
 さっきの間はなんだ。そして何故どもっているのだ。
 まぁ了承も得られた事だし。確か私の所持する記憶では牡羊座の聖闘士はクリスタルウォールという一種の結界のような物を張る技を持っていたはず。それがあれば失敗しても大丈夫だろう。
「んじゃ早速付き合ってもらおうかな」
 準備体操を始める私に、不思議そうな表情を作るシオン君。
「どうしたの? 付き合ってくれるんでしょ?」
「う、うむ……しかし、今から……か?」
「まだお仕事残ってる?」
「そのような事はないが」
 妙に歯切れが悪い。あ、実はやっぱり嫌だとか?
「嫌なら別にいいんだけど」
 言えば、そんな事はない。と否定の言葉が返ってくる。
「ここじゃあれだから……どっかに広場みたいな場所ないかしら?」
 なるべく人が来ない所の方が良いんだけど、と続ければ妙に複雑な表情を浮かべた。さっきから変なシオン君。
「広場……?」
「ん、そう練習に付き合ってくれるんでしょ?」
「………………練習……?」
「うん、練習」
 知識は持っていても活用出来なければ意味がない。一度この身に覚えさせる事も必要だと考え、練習に付き合って貰おうとおもったのだけれど……。
「……練習……か……」
「シオン君の持つ技なら、失敗しても周りに被害が出るのはくい止められるでしょ?」
「…………あい分かった……」
 妙に肩を落としてとぼとぼと歩くシオン君の後ろ姿を見つめながら、何故だろうと考えてみたが答えは出なかった。
「えーっと……まずは小宇宙を遮断する結界を張って……っと」
 引きずり出してきたイメージ通りに動作を行えば、それはいとも簡単に設置された。
「そのような事も出来るのか……」
「他の人に見つかったら色々都合悪いし……」
 初めてにしては上手く行った事に満足し、次はいくつかの技の確認に入る。
 元々クロノスは絶対中立な立場な為、攻撃的な物よりも防御的な技を得意としているらしい。シオン君に向かって攻撃してくれるように頼み、彼の高まる小宇宙に合わせて私も構えを取った。

「……やれやれ……沙希も無茶をする……」
「あはは……ごめんね、本当に」
 服がボロボロになったシオン君と、無傷な私。
 取り敢えず着替える為に教皇の間へと戻ったシオン君は、たまたま居合わせたサガさんに格好について色々追求されたらしい。一緒に行かなくて良かったと心の底から思った。
 合掌。
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