Shooting Star 6

「健康診断ですか?」
 予想外すぎる単語に面食らったが、全員の健康診断ということで他の都市の仲間も集まるらしい。響希君達が名古屋で会ったという仲間と話してみたい気もするが、それ以上に気になるのは身長が伸びているかどうかだ。
 出来ることなら後数センチ伸びて欲しいとは思っているけれど、私の意志とは裏腹に数年前からぱたりと止まった成長。まだ、まだいけるハズだ! と気合いを入れること数回、未だ効果は発揮されていない。
「なんだかドキドキしちゃうね」
「健康診断自体久しぶりだもんねぇ」
「そこの二人、早くこっちに来て頂戴」
「あっ、すみません!」
 次々と健康診断を済ませていく中、ようやく私の番だと流行る胸を押さえ身長を測る台の上へと乗り上がる。
「んー、159cmね」
「えっ!」
「うん?」
「も、もう一センチくらい伸びてませんか? あと一センチッ!!」
 私の抗議も虚しく、用意された紙に記載された身長。今年もまた駄目だったと肩を落とす私を、曖昧な笑みで維緒ちゃんが慰めてくれる。
「じゃあ次はこっち」
「これは?」
 既に身体検査を終えたのか、はたまた測る側の人間なのか。機械の前に立つ気怠そうなチャイナ服を纏った女性の手招きに従い近づくと、つい際どいラインのスリットに目がいく。男からしたら眼福ものだろうが、私としては下着を履いているのかどうかが気になるところだ。
「魔力を測る機械」
「魔力、ですか?」
 人間にそんなものがあるのかと首を傾げる私に、ジプスの局員は多かれ少なかれ魔力を持っているのだと乙女さんが説明してくれる。
「ヒビキ君とかイオちゃんならまだしも、私に魔力なんてあるのかなぁ」
「君はたしか、刀に憑いている悪魔を使役するのだったな」
「あれ、ご存じなんですか?」
「局長が身の程知らずだと話しているのを聞いたまでよ」
「うぐっ!」
 史と名乗った美人さんの言葉が胸に突き刺さる。そりゃ刀に憑いてるのがどんな悪魔かなんて知りませんでしたけれども。それに前回は寝坊して置き去りにされましたけれども。
 何も部下である人に対して私の悪口を言わなくてもいいのではないだろうか。
 すっかり撃沈ムードの私を相変わらず優しい維緒ちゃんが励ましてくれるが、言葉を貰うたびに惨めな気分になってくのは何故だろう。
「じゃ、測るから平常心でいてね」
「……はい」
 今の状態で平常心を保つなど到底無理な話だ。どうせ現代機器に弱く召還アプリが使えなくて、元々刀に憑いてた霊的な何かに頼るしかない私自身の魔力なんぞを測っても、悲しい結果が出るだけで――。
「ッ!?」
「うわっ!?」
 計測し始めたと同時に鳴り響くサイレン。新たな敵が出現したのだと連絡を受ける迫さんの声を聞いていると、午前中からご苦労なことですとため息をつきたくなった。



 高位の悪魔を所持しているということで、何故か単独で戦闘現場に向かわされたんだけど、これってなに? 左遷? それとも新手のイジメ? 合理主義な局長さんの采配に泣きたい気分になったが、現実問題として敵を前にしてしまえば選択の余地はなくなってしまう。
「たしかに負ける気はしないけどぉ……なんていうか、気分の問題だよね、こういうのってさ」
 一人っきりの戦闘は虚しいと次から次に現れる敵を睨み付け、さっさと終わらせるべく剣を抜いたが――。
「なーんか楽しそうなことしちゃってるじゃない?」
「またでた……」
 首の後ろが焼けるような感覚は二度と味わいたくないと思っていたのに、ふらりと現れたナンパな男は姿に似合いのウィンクを飛ばしこちらへ近づいてきた。私を護るように立っているマサカドを彼にけしかけてしまいたい気分に陥ったが、表情から感情を読み取ってか「降参降参」と胡散臭い笑みと共に男は両手を挙げる。
「一応聞きますけど、何しにきたんです?」
「君が憂さ晴らしでもするのかと思って?」
「は?」
 敵を倒すことがどうして憂さ晴らしに繋がるのだろう。きっとこの男は見た目通りに頭のネジが緩みきっているに違いない。
 厄介だ、今すぐ消えて欲しい。
「悪いけど、貴方に構ってる暇は……」
「琉依チャン、ボクに頼んでみる気なぁい?」
「はい?」
 質問の意図が読めないと眉を顰めると、怖い顔をしないでと男はケタケタ笑う。
 耳障りに目障り。ついでに言えば存在自体を抹消してしまいたい。ここまで攻撃的な気持ちになるのも久々だと沸き上がる感情を喉元で押し止め、男が誘うよう「だったら」と続く音を具現化する。
「倒してよ」
「ご命令通りに」
 わざとらしく一礼をし、一呼吸の後男の姿は敵陣の真っ直中に在った。
 楽しいと言わんばかりの表情で敵を屠っていく姿は悪魔そのもの。
 悪魔というと、ケルベロスや響希君達が使役するような人型以外を模していると思っていたが、良く考えればマサカドと呼ばれた剣に取り憑いている悪魔も人の姿を模していた。
「貴方、悪魔なのね」
 言葉に出すと男を前に感じていた違和感が霧散するのを感じる。成る程、やはりあの男は悪魔なのだろう。返答のない事実を認識し、刀を鞘に収めることによってマサカドを収納する。
「自分から言い出したことだし? 実力はあるみたいだし?」
 踊るように敵をなぎ倒す男を一瞥し、この場は任せてしまおうと心に決めれば後は簡単。
「じゃ、おっさきー」
「えっ!? ちょっ、琉依チャン!? 」
「貴方なら一人で十分でしょ? 私は帰ってお昼ご飯食べたいんで。全部倒してから何処かへ行ってね? 戻ったら倒して来ましたって報告するんだから」
「やだ、なにそれ!? ヒドイワッ!」
 笑いを含ませた声で嘆く男に付き合ってやる義理などない。そもそも敵を倒してやろうと提案してきたのはあちらなのだ。私が合わせてやる必要はどこにも見当たらない。
 そこまで考え、どうして見ず知らずの男をそこまで頼る事が出来るのだろうかと頭を捻ったが、相手は悪魔なのだから真面目な対応をした方馬鹿なのだと自身を納得させる。
「それにヤマトさんだって使えるモノは使えって言ってたしね。うん、何も悪くない。さーって、お昼何食べようかなぁ」
 あり合わせの食材でパスタでも作れないだろうか。厨房の人に相談してみようと現場を立ち去った私の背後で、ねちっこい声が私の名前を連呼していた気がしたが、気のせいだと無視することにした。
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